こんにちは!
今回は、ダリの代表作《記憶の固執》を解説します。
早速見ていきましょう!
記憶の固執
サルバドール・ダリ《記憶の固執》1931年
24×33センチと、A4サイズの紙に近い大きさという意外に小さな作品で、ダリが27歳のときに描いた絵です。
ダリは人一倍、死に対する恐怖や関心が強かったため、この作品にもそれがよく表れています。
タイトルの由来
《記憶の固執》というタイトルは、妻のガラが初めて見たとき、「この絵は一度見たら決して忘れられないわ」と言ったことから付けられたといわれています。
溶けた時計の意味
ぐにゃりと溶けた時計が描かれています。
止まった時計は死を表します。
ぐりゃりと曲がった時計は溶けたカマンベールチーズを見て思いついたとも、アインシュタインの相対性理論にある「時間のゆがみ」という概念からヒントを得た(本人は否定)ともいわれていますが、どういう意味で描いたのかはよくわかっていません。
ちなみに、この作品が誕生したときのダリの回想によると…(とはいえ、ダリはダリを演じていた節があるのでどこまで本当の話なのかは微妙なところ…)
ある晩、ダリは友人たちを自宅に招き食事をし、そのあとガラと友人たちは映画を見に外出しました。
ダリは家でひとり、皿の上に残されたカマンベールチーズの「超柔らかさ」について考えていました。
そして寝る前にアトリエの小さな風景画を確認し、明かりを消した瞬間に、「進行する時間」と「溶けていくカマンベールチーズ」が重なって見えました。
硬いものと柔らかいものの対立のなかで、ダリは描きかけの風景画にイメージに浮かんだ溶ける時計を描き加え、2時間後にガラが戻って来たときには完成していました。
食への異常なこだわり
サルバドール・ダリ《焼いたベーコンのある柔らかい自画像》1941年
ダリは作品の中で、硬さと柔らかさの対比を好みました。
ダリの好物も、チーズ、パン、エビなどの甲殻類、卵など、硬い外側に柔らかな中身が詰まった食べ物たちでした。(特に卵が好きだったそう)
どうして硬さと柔らかさに固執するのかは諸説ありますが、弱い自分を外敵から守ってくれる鎧がダリには必要だったからです。
というのも、ダリが生まれる前に、同じ名前の兄が亡くなっていました。
両親は亡くなった兄の生まれ変わりとしてダリを育て、ダリにはそれがまるで自分が死んだ人間であるかのような錯覚に陥ります。
両親の寝室に飾られていた兄の写真を見るたびに、自分が死んで腐敗していくところを想像し、死への恐怖に怯え続けた少年時代を送りました。
自画像
この謎の物体は、ダリの自画像と考えられており、ダリお気に入りのモチーフのひとつでした。
絵が描かれたのが1931年、ガラとの出会いが1929年、ダリは、包容力のあるガラと出会い、か弱い自分をさらけ出すことができるようになり、そんな自分を表現するようになりました。
ボスの《快楽の園》のオマージュ
ヒエロニムス・ボス《快楽の園》1490-1500年
似たような形があります。
ダリはボスの研究をしていたので、あえて模倣したと考えられています。
アリやハエ
懐中時計に群がる蟻と蠅は、腐敗したものにたかることから死を象徴し、終末を暗示しています。
見慣れた風景
アトリエから見えるポルト・リガトの入り江が描かれています。
ダリは身近なモチーフを用いて超現実の世界を構成しました。
枯れたオリーブの木
生命の終わりを表す枯れたオリーブの木が描かれています。
その奥にある板状の長方形の台は、波止場で、崩壊した終末世界からの旅立ちの象徴だと考えられています。
リメイク版
サルバドール・ダリ《記憶の固執の分解》1952-1954年
《記憶の固執》を再構成した絵を、再度描いています。