フランダースの犬でネロがどうしても見たかったルーベンスの絵って?

こんにちは!

今回は、見た人誰もが一度は泣いたはず『フランダースの犬』の終盤でネロが見たがっていたルーベンスの絵について解説します。

早速見ていきましょう!

『フランダースの犬』


フランダースの犬 (徳間アニメ絵本36)

可愛らしい絵柄にだまされて子どもたちがつい見てしまうアニメ『フランダースの犬』。

主人公ネロが最初から最後まで不運に見舞われるその物語は、あまりにも世の中の理不尽がつまっており、小さい頃見た私も悲しくてしょうがなかった記憶があります。

ネロは唯一の身内であるおじいさんを亡くし、冤罪によって仕事を失い、貧困に苦しむ中で、最後の希望として絵画コンクールに挑みますが、落選してしまいます。

しかし、実は審査員たちはネロの才能を高く評価しており、「ルーベンスの後継者」とまで言われていました。

その後、冤罪は晴れ、ネロをいじめていた大人たちも彼の善良さに気づいて謝罪しようと探しますが、時すでに遅し…。

大雪の夜、すべてが絶望的に感じられたネロでしたが、教会で運良くルーベンスの絵を見ることができました(通常は鑑賞に高額な料金がかかり、ネロには手が届かなかった)。

しかし、寒さに耐えきれず、パトラッシュとともに絵の前で凍え死んでしまいます。その後、天使が現れ、ネロとパトラッシュは天国へと旅立ちました。

ネロが最後に見た絵

ネロがどうしても見てみたかったのが《キリスト昇架》と《キリスト降架》という絵でした。

どちらの絵もベルギーのアントウェルペンの聖母大聖堂にあります。

《キリスト昇架》


ピーテル・パウル・ルーベンス 三連祭壇画《キリスト昇架》1610~1611年

この絵は、イエスが十字架に磔(はりつけ)にされ、その十字架が立てられるシーンが描かれています。

左側にはイエスの処刑を嘆き悲しむ人々、右側にはイエスの処刑を指示する司令官(馬に乗っている人)が描かれています。

三連祭壇画なので閉じると裏の絵が現れます↓

左側の絵に描かれたサンタさんのような人物は、ビール醸造やバーテンダーの守護聖人である聖アマンドです。彼の隣にいる女性は聖ワルプルガです。

右側の絵に描かれた美しい女性は聖カタリナです。彼女は首を剣で斬られて死んだため、剣と殉教の印であるシュロの葉を持っています。

聖人の絵を描く際には、どの聖人の絵なのか誰でも分かるように、どのような死に方をしたのか、またその時に使われた拷問器具などが一緒に描かれることがよくあります。イエスが処刑されたように、聖人たちも異端と見なされて殺されてしまうことが多いです。

隣にいるおじさんは、金細工や鍛冶屋の守護聖人である聖エリギウスです。

《キリスト降架》


ピーテル・パウル・ルーベンス 三連祭壇画《キリスト降架》1611~1614年

こちらの絵では、十字架に磔にされたイエスが降ろされるシーンが描かれています。

イエスのポーズは、有名な「ラオコーン像」から取っていると言われています。

「十字架後架」のシーンを描いた絵には、よくはしごが描かれます。はしごは、イエスの遺体を降ろすためだけでなく、イエスの犠牲によって人類は救われて天に昇ることができるという意味も込められています。

左側の絵は、イエスを身ごもっているマリアが、洗礼者ヨハネ(水で身体を清める儀式のプロ。後にイエスにもしてあげている)を身ごもっているエリザベトを訪問している場面です。

右側の絵は、抱神者シメオン(神を抱っこしたすごい人)が、イエスを抱いている場面です。

こちらの絵の裏側にも…

左側の絵は、イエスを背負っている聖クリストフォロスです。

小さい男の子に「川を渡りたい」とお願いされ、彼は子供を背負って渡ろうとしましたが、子供が予想外に重く、神(イエス)を運んでいたことに気付く話です。

右側の絵は、隠者です。

一見、急に隠者が描かれている理由が分からないかもしれません。イエスが処刑されても、信仰する人の中で生き続けるという意味が込められているのでは?と私は考えています。

また、この絵を見に来ていた人々と隠者の立場が近く、感情移入しやすかったのかもしれません。

祭壇画は、その土地にゆかりのある聖人が描かれることが多いです。

ネロがいつも眺めていた絵


世界名作劇場 フランダースの犬 1000ピース 憧れの絵 1000-342

《キリスト昇架》や《キリスト降架》は、鑑賞するためにお金が必要でしたが、マリア様の絵は自由に見ることができ、ネロは毎日のようにこの絵を見に来ていました。

ネロは、この絵の中の聖母マリアの顔と、幼い頃に亡くした母親の顔を重ね合わせて見ていました。

《聖母被昇天》も同じくベルギーのアントウェルペンの聖母大聖堂で見ることができます。

《聖母被昇天》


ピーテル・パウル・ルーベンス《聖母被昇天》1625-1626年

この絵は、亡くなった聖母マリアが天に昇る様子を描いたもので、信仰心の深い人々にとって非常に重要な場面です。

描かれている人々が下を向いているのは、「えぇ…どこいったの?」お墓の中にあるはずのマリアの死体がないことに気づいたからです。

マリアは肉体ごと天国へ昇っていったため、地上には何も残っていませんでした。

マリアは人間ですが、神イエスの母親なので、そんな特別措置もあるんでしょうね。

まとめ

・ネロが見たかった絵はルーベンス《キリスト昇架》《キリスト降架》 
・ネロが毎日見ていたのはルーベンス《聖母被昇天》マリア母親を重ねていた
 


鑑賞のためのキリスト教美術事典 (リトルキュレーターシリーズ)

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キリスト教ではたくさんの聖人がいるのですが、キリスト教でない人からしたら、誰が誰なのかよくわかりませんよね。

その見分け方や、よく描かれるシーンについて絵やイラスト多めで解説が載っています。