こんにちは!
今回は、15世紀の最高傑作といわれる《ヘント祭壇画》について解説します!
早速見ていきましょう!
《ヘント祭壇画》

これを開けると…

フーベルト・ファン・エイク、ヤン・ファン・エイク《ヘント祭壇画》1432年
開けたり閉めたりすると違う絵が出てくる系の祭壇画、すっごくワクワクしません?楽しい…
祭壇画なので、お祈りするための絵です。
この絵が出来た当時は祭壇画全盛期でした。
普段は閉じていて、祝日やクリスマスなど、特別な日にのみ、開いた絵を見ることができました。
閉じている絵を見ても、開けたら救済がある!と直感的にわかるものでもありました。
とても大きい
縦3.75m、横5.7mあります!大迫力!
ヘントの聖バーフ大聖堂にあります。
本当に奇跡的に残っている絵
今までに13回もの犯罪と7回の窃盗の標的になっています。
祭壇画オープンして一番左下のパネルは、今も行方不明です。
もはや元の絵とは?というくらい加筆されていた
この絵、600年近く前の絵なんです!
これまでの時代の人々が、「この絵は後世まで残さなければ…!」と思っい、絵を保護するためにニスを塗り重ねたり、加筆したり…を繰り返した結果、
近年の調査で、絵の断面を見た時、層の半分くらいはそのニスや加筆でした。(ほこりやすすなどの汚れも含みます)
絵の表面で見ると、画面の7割は後世の加筆が加えられた状態でした。
なので、元の絵に戻そう!ということで、2012年10月からず〜〜〜っと修復作業をしています。
修復作業は、顕微鏡を覗きながら、外科用メスで落としているそうで、なんて根気のいる作業…
超解説
ここから先は細部まで詳しく知りたい人向けの内容です!
この絵見てわかるように、ものすごく、ものすごくいろんなものが描きこまれているので、文字で説明したら意味不明かな?と思い、絵に直接書き込んでみましたが…
カオス…
色分けの意味は、
黄…人物
白…絵の中に書いてある文字の翻訳
水色…アイテム
です。


キリストの背後の金襴(豪華な織物)の柄をよ〜く見ると、ペリカンとぶどうが描かれています。
ペリカンは当時、雛を育てるときに自分の血を与えていたと信じられていました。
ぶどうといえば、赤ワイン、赤ワインといえばキリストの血!
どちらもキリストを連想させるモチーフです。
この部分、ブロカー・アプリケという織物の質感を出すために、表面に凹凸を作ってから彩色するという技法を使っています。



だれも楽譜見てない。
わざわざ回転するすごそうな楽譜台使ってるくせに?
天使とは思えない顔のヤバさも必見です。
通常天使を描くときは、翼があったり、顔が整っているのですが、この絵は違います。
この理想化されていない顔にすることで、現実味ある絵にしています。

マヨリカ陶器のタイルをよ〜く見ると、「IHS(キリストのこと)」や、神の子羊が!


ほぼ等身大で描かれています。
イチジクの葉で隠していることから、禁断の果実を食べた後、楽園追放されている2人だとわかります。
イヴといえばりんごですが、このイヴはなぜかシトロンか柚子のような果物を持っています。
罪に偽装を塗り重ねているんでしょうか…謎。
アダムの足が額縁を越えて、こちらへ踏み出しそうな描き方がされています。
トロンプルイユ(だまし絵)的な手法で、これが成立するのは、リアルな絵だけです。(ミッフィーの足が額縁から出てきそうな絵を描いても、絵にしか見えませんよね?)
絵の上手さをさりげなく見せつけているわけです。

修復で一番変わった部分といえば、真ん中の子羊の顔です。
左が修復前、右が修復後です↓

こっち見てる…!
つぶらな瞳で鑑賞者を見つめる子羊…愛嬌のある顔(笑)
修復前は、耳が四つありましたが、正解はこの位置だったみたいです。(笑)
想定外の表情で、神聖な雰囲気がどこかへ行ってしまったと話題になりました。人面子羊。
この子羊は、人類のために犠牲になるキリストを表しています。
じっとこちらを見ているのは「人類を救うために、死んだんだよ???」と、見る側に圧をかけているんです。
この祭壇画は、キリストの犠牲によって、魂が救済され、約束された楽園が現れると、祈っている人に思わせる、信じさせるための絵です。
下は画面右上の女性殉教者たちです。
殉教者とは自らの信仰のために命を失った人のことをいいます。(キリスト教迫害などで)

誰が誰なのかは、最初の画像で書きましたが、カオスですね。(笑)
彼女たちはそれぞれの持ち物を持っているので、比較的見分けやすいです。
聖アグネスは、子羊を意味するラテン語agnusと似ていることから、
聖バルバラは、ラプンツェルのように塔に幽閉されていたことから、
その隣、聖カタリナは、よく車輪(車輪にくくりつけられて転がされるという拷問から)と一緒に描かれますが、今回は豪華な衣装を着ているだけ、
聖ドロテアは、バラの花かご(「神の庭から果物持ってきてみろよ」とからかわれた後、神から果物とバラが届いた)と、
聖ウルスラは、弓で射殺されたことから矢と一緒に描かれています。

「正しき裁き人」のプレートは盗難に遭い、行方不明のままです。
このプレートに描かれている赤いターバンが、兄フーベルト、その隣がヤンの自画像では?と言われています。

遠くに山がかすんで見えますよね?
これは空気遠近法というレオナルド・ダ・ヴィンチが使った技で有名なものですが、その80年以上前にファン・エイク兄弟が描いていたんです。



マリアに話しかけています。
ガブリエルの羽根が、スイカにしか見えません。

マリアの返答は神に読めるよに、文字が逆向きになっています。面白いですよね。

水差しの水がリアル…これもマリアの壊れない子宮を表すモチーフです。

窓の外の風景を拡大すると、人がいます。細かい………

さらに…額縁の影が絵に映り込んでいます!
額縁は絵を区切るものであって、絵の中とは関係ないはずなのに映り込んでいるんです。
この描写があることで、鑑賞者は絵にスッと入り込むことができます。
さらにさらに!額縁の影は左ですが、窓の外の人物の影は右なんです!
額縁は現実の光、外は神の光と解釈することもできます。

彫刻風に描くことで、人じゃなくて聖人ですよ〜と伝えています。
洗礼者ヨハネは羊を指差していることから、「見よ、神の子羊」と言ってることがわかります。(決めゼリフです)
福音記者聖ヨハネは、杯で毒を飲まされたけどケロっとしていた話から、やばそうな聖杯をこれ見よがしに見せつけています。
寄進者というのはこの絵の依頼者ということです。私たちがお金払いましたよってことです。
2人は夫婦です。
まとめ
この祭壇画は、キリストの犠牲によって、祈る側の人間の魂は救われるから、信じて祈りなさい、という絵です。
各プレート、いろんな人が描かれすぎてもはや意味不明だと思いますが、これだけ有名な人を集めましたよ、っていうぜいたくな絵でもあるということです。
ノリとしてはアベンジャーズアッセンブル!!みたいな感じです。
それぞれのキャラクターが主役級で、スーパーヒーローで、そんなすごい人たちが大集合したら、テンション上がりますよね?有り難みが増す。そういうことです。
・《ヘント祭壇画》はファン・エイク兄弟作の非常に大きな多翼祭壇画 ・キリスト教徒に神を信じさせるための絵 ・重ね塗りされすぎて、オリジナルと全然違う状態だった