こんにちは!
今回は、ギリシャ神話に登場する旅の守護神であり、神々の伝令使ヘルメスを解説します。
早速見ていきましょう!
ヘルメス(メルクリウス、マーキュリー)
ヘンドリック・ホルツィウス《メルクリウス》1611年
ギリシャ名:ヘルメス、ローマ名:メルクリウス、英語名:マーキュリー
アトリビュート:ケリュケイオン(カドゥケウス)の杖、ペタソス(帽子)、翼付きサンダル
商売、旅行、泥棒の神です。
オリュンポスの神々のメッセンジャーとして知られていますが、旅人や商売人、泥棒の守護神でもあります。
ヘルメス自身も泥棒です。
様々な種類の道具を発明したヘルメスは、神話での登場回数が最も多く、大抵の場合、英雄を助ける役目を担っています。
いたずら小僧は泥棒の神
クロード・ロラン《アポロンとヘルメスのいる風景》1645年頃
ヘルメスは、生まれた日の夜にゆりかごを飛び出し、アポロンの聖なる牛を盗みにいきました。(父親はもちろんゼウス)
あとをつけられないようにと、牛を後ろ向きに歩かせました。
羊飼いに見つかってしまいますが、牛を渡して買収しました。
これに味をしめ、母マイア(ティタン神族アトラスの娘)に、「泥棒は最高の職業だ。自分は泥棒の神になる」と宣言しました。
その後、ゆりかごに戻ってぐっすりと眠りました。
商売の神
牛を盗まれて激怒したアポロンは、犯人を突きとめますが、赤子ヘルメスは頑として認めませんでした。
泥棒にして嘘つき、たいした才能です。
しかし買収した羊飼いが密告してしまいます。
ヘルメスは機転を利かせ、発明したばかりの亀の甲羅で作った竪琴を、音楽の神アポロンにプレゼントしました。
策は大成功し、大喜びのアポロンはヘルメスを許し、ヘルメスは泥棒だけでなく商売の神にもなりました。
3つの翼アイテム
ジャンボローニャ《天翔けるメルクリウス》1580年
気前のいいアポロンは、赤子ながらも泥棒のヘルメスに、金でできた伝令の杖ケリュケイオン(カドゥケウス)を贈りました。
ヘルメスは、これに以前ケンカをして引き離された2匹の蛇を加えました。
以降、この杖は商売と雄弁の象徴となり、フランスの国民議会の演壇にも描かれています。
ちなみに医学を象徴するアスクレピオスの杖とは別物です。
アスクレピオスの杖には翼もなく、蛇も1匹だけです。
ペタソスと呼ばれる帽子も、ヘルメスのアトリビュートです。
これはギリシャの旅人がかぶっていた、つばのついた丸い帽子です。
この帽子にもサンダルにも翼が付いています。
神々のメッセンジャー
ヘルメスは抜け目のなさが買われて、神々の伝令役に指名されました。
ヘルメスなら、頭の回転も足の速さも折り紙つきです。
ヴィーナスとマルスの不倫がバレて2人が捕らえられたときも、「こうした罰を3度受けてでも、ヴィーナスの恋人になってみたい」と言い放ち、気の弱っていたヴィーナスはこれを受け入れ、両性具有のヘルマプロディトス(ヘルメス+アプロディテ)が生まれました。
冥界のガイド役
シメオン・ソロモン《マーキュリー》19世紀
ヘルメスは、医学から泥棒まで、さらには売春をもカバーする守備範囲の広い神ですが、死者の家族にとっては、冥界への導き手でもあります。
フランス語ではこれを「プシコポンプ」と言い、「プシコ」は「魂」、「ポンプ」は「導き手」を意味します。
ゼウスのために冥界から死者を連れ出したのもヘルメスでした。
様々なモノの語源に
ヘルメスのラテン語はメルクリウスですが、これは、「マーチャンダイズ(商品)」や「マーケット」という語と関係しています。(ヘルメスは迅速にメッセージやものを届けることから商売の神とされている)
水銀もメルクリウス、すなわち「マーキュリー」と呼ばれています。
これはクイックシルバーと呼ばれるほど活発だからです。
天文学の分野では、水星はマーキュリーと呼ばれ、フランス語の「水曜日(メルクルディ)」の語源にもなっています。
魔術との関係
ヘルメスは、エジプトの神トートと同一視され、エジプト王朝後期には「ヘルメス・トリスメギストス」として崇められました。
「三重に偉大なヘルメス」を意味するこの神は、神秘主義的思想の「ヘルメス文書」を記したとされています。
「ヘルメス的」すなわち「秘教的(手に入れがたく難解)」という言葉もここに由来し、さらに「密封した」や「わかりにくい」という意味も派生しました。
高級ブランドエルメス
生まれてすぐにアポロンの牛を盗んだためなのか、牛革を使用した商品を展開する高級ブランド「エルメス」にも、彼の名前が付けられています。
その他にも、結構な数の広告にヘルメスは登場しています。(ホテルのロゴなど)