こんにちは!
今回は、病院に飾ってあった「死」の絵を2枚紹介します。
早速見ていきましょう!
聖カリダード施療院の2枚の絵
バルデス=レアル《束の間の命》
バルデス=レアル《世の栄光の終わり》1670-1672年
豪華な施療院に飾られている絵
セビリーリャの聖カリダード施療院付属聖堂の正面入口の左右の壁に、この絵が飾られています。
この施療院は、カトリック信徒たちによる慈善団体である信徒会が運営し、貧困者や行き倒れの世話、身寄りのない病人の治療、処刑された犯罪者たちの埋葬などを行っていました。
聖カリダード施療院の公式ページのバーチャルツアーで聖堂内を見ることができるのですが、白×金でおしゃれだし豪華だし、楽しすぎてずっと探検しちゃいました。是非!
束の間の命
バルデス=レアル《束の間の命》
骸骨が大鎌を左手に持ち、地球儀に足を載せ、右手でろうそくの火を消しています。
ろうそくの上には、ラテン語で「瞬きする間に」と書いてあります。
死は瞬きする間にやってくるという意味です。
テーブルや床の上には、甲冑、ミトラ(司教冠)、バクルス(司教杖)、王冠、勲章、書物などが描かれています。
これらが何を意味するのかは、もう一枚の絵を見るとよくわかります。
世の栄光の終わり
バルデス=レアル《世の栄光の終わり》1670-1672年
地下墓地
左に階段が描かれています。
そこに留まっているフクロウは、夜と眠りの象徴です。
ここは地下墓地です。
画面下の巻き紙には、ラテン語で「世の栄光の終わり」と書いてあります。
謎の手
画面上は光り輝き、赤い衣装を着た人物の腕が天秤を持っています。
手の甲に聖痕があることから、イエス・キリストだとわかります。
天秤
左
左の「多くもなく」と記された皿の上に載っているのは、「七つの大罪」を表す動物たちです。
孔雀は「傲慢」、ヤギは「物欲」、コウモリは「嫉妬」、犬は「憤怒」、豚は「大食」、猿は「色欲」、ナマケモノは「怠惰」です。
下にはドクロや骨が折り重なっています。
右
右の「少なくもなく」と記された皿の上には、イエズス会のモノグラムを冠した真っ赤な心臓、釘を打たれた十字架、祈祷書、ロザリオ、パン、苦行者用の衣と鞭と鎖が載っています。
下には一体のガイコツがあります。
左右の重さはほぼ同じなようで、天秤は水平を保っていますが、この後どちらかに傾くのでしょう。
死とともに生前の行いが審判にかけられ、天国行きか地獄行きかが決定します。
棺
画面手前にある、すでに剥がれてきている赤い革張りの棺には、ミトラをかぶり、バクルスを持った司教が横たわっています。
死後かなり時間が経っているようで、身体は腐り、骨が露出し始め、腐敗した肉を食べるシデムシが這いまわっています。
その隣の黒い棺には、まだ外見上の変化はなく、眠っているかのようです。
死んだばかりのこの男性は、左肩にカラトラバ騎士団の紋章入りの布を掛けていることから、騎士だとわかります。
彼が司教のようになり、最終的には奥のガイコツのようになるのは時間の問題です。
生前は世の栄光を謳歌した権力者も貧民も、死ねば一緒、死は平等というメッセージ性のある作品です。
誰が注文した絵?
この絵を発注したのは、当時の信徒会代表のミゲル・デ・マニャーラです。
彼は聖カリダード施療院の聖堂内の美術品装飾の主題の選定や設置場所などに関わっていた人物でした。
騎士貴族だったマニャーラは、妻を亡くした後、信徒会に入会し、代表者となった人物です。
なんと、黒い棺に入っている騎士は、マニャーラです。
まだ生きている自分を、死者として絵の中に描かせたんです。
というのも、彼は、あのプレイボーイとして有名なドン・ファンのモデルになった人物なんです。
遊び呆けていたマニャーラは、妻の死をきっかけに回心し、弱者救済の道に進み、有名人となりました。
この絵は、当時人気だったヴァニタス画です。
現世でどれだけお金や地位があっても、人は皆死ぬ運命にある、だから「死を思え(メメント・モリ)」という絵です。
マニャーラは、自分の死体を絵に描かせることで、それを見て、死への恐怖を克服し、死への覚悟を固めようとしていたのかもしれません。