こんにちは!
今回は、ドガの《ベレッリ家の肖像》を解説します。
早速見ていきましょう!
ベレッリ家の肖像
エドガー・ドガ《ベレッリ家の肖像》1858-1869年
ドガは、22歳から3年間、イタリアへ美術修行の旅に出ました。
フィレンツェでは、叔母のラウラとその夫ジェナロ・ベレッリ男爵に招かれ滞在しました。
ドガがフィレンツェに滞在していた頃のベレッリ夫妻は、現代でいうところの「仮面夫婦」でした。
表面的な理想化を排し、ありのままの家族の姿をあらわにしています。
10年もかけて描いた
ドガは初期、多くの肖像画を描いていましたが、本作はその最高傑作と呼ばれています。
パッと描いてサロンに出品するはずが、完成したのは約10年後でした。
フィレンツェ滞在中に、モデルの性格を最もよく表現できるポーズを模索し、何度もデッサン画を描き、24歳のときにパリに戻ってから制作しました。
ドガは対象に対する情を排し、鋭い観察眼で現実を描いた画家でした。
何気ない家族の肖像画のようですが、画面からは緊張感や冷たさが伝わってくる作品です。
ドガは、描く対象の不幸やら悲哀、そして秘密までも表現することができました。
登場人物
叔母ラウラ
叔母のラウラ・ベレッリです。
ドガ家出身のラウラの精神状態は不安定で、遠くを漠然と見つめた表情からもうかがえるように彼女は時に鬱状態に陥っていました。
喪服でわかりづらいのですが、妊娠中の姿が描かれています。
表情は冷たく、心ここにあらずな感じで、夫と視線を合わせようともしていません。
それもそのはず、ラウラは夫をひどく嫌っていて、被害妄想に苦しんでいたんだとか。
ベレッリ男爵
夫は、ナポリの貴族ベレッリ男爵です。
政治家でもあり、弁護士でもあった男爵は、政治的な理由でナポリから亡命中の身でした。
書類を見ていたのでしょうか。
不機嫌そうな表情で端にいます。
男爵を1人だけ背中を向けて描くことによって、妻や娘たちとの家庭内における精神的な距離感や孤独感が表されています。
長女
長女のジョヴァンナです。
正面を見つめるその眼差しは、鑑賞者を引きつけ、絵の中に引き込んでいきます。
次女
次女のジュリアです。
家族の中で一番柔らかな表情をしています。
母親の方に体を向け、顔だけ父親の方を向いています。
足はどうなっているのかというと、左足を組んでいます。
無邪気な様子は、この場の緊張感を緩め、家族をかろうじてつなぎとめているかのようです。
画中画
壁に飾ってある絵は、ドガが描いたラウラの父(ドガの祖父)の肖像画です。
本作が描かれる前に他界しており、叔母が喪服を着ているのも、祖父への追悼だと考えられています。
エドガー・ドガ《イレール・ド・ガスの肖像》1857年
この絵に似ていますね。
飼い犬
わかりにくいのですが、右下の端に犬が描かれています。
家族の分断を象徴するかのように、頭部が画面から切れて描かれていません。
被写体を途中で切るような描き方は、浮世絵の影響ともいわれています。