こんにちは!
今回は、ヤン・ファン・エイクの《アルノルフィーニ夫妻像》を徹底解説します!
早速見ていきましょう!
《アルノルフィーニ夫妻像》
ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》1434年
この絵は通常、2人の結婚契約の場面を描いたものだと考えられています。
ですが、そうではないかもしれない説もかなりあり、謎めいた絵画でもあります。
画期的な肖像画
当時肖像画といえば、上半身だけを描いたものが主流だったなか、ヤン・ファン・エイクは、全身像を描きました。
肖像画で複数人を一つの絵の中に描くというのも珍しかったのに、さらにその2人に動きがある(手を繋いでいる)というのは、非常に珍しい描き方でした。
舞台はどこ?
絵の舞台は夫婦の家の客間です。
豪華な衣装や調度品がある割に、壁や床など部屋が質素なところに違和感を感じます。
凸面鏡に映る景色から、2階以上だとわかります。
さらに窓の外に見えるさくらんぼから、季節は夏だとわかります。
日本の桜の木とは違って、さくらんぼの実がなる桜の木(セイヨウミザクラ)が存在します。
ちなみに桜は愛の象徴です。
2人は誰?
長い間、ブルージュに住むイタリアの商人ジョバンニ・ディ・アリーゴ・アルノルフィーニとその妻が描かれていると考えられていました。
しかし、彼らが結婚したのは、絵画の中の壁に書かれた1434年という日付よりも数年前であったことが判明し、現在は、ジョバンニのいとことその妻を描いたものだと考えられています。
新婚夫婦とは思えない、なんだか冷たい空気が漂うところもこの作品の魅力のひとつです。
実際よりも長身に描かれた2人の体は、衣服のボリュームを目立たせ、富とステータスの高さを印象づけています。
なんか異様な感じがして目が離せないこの人物は、ヤン・ファン・エイクの友人だったのでは?といわれています。
夏用の黒い麦わら帽子をかぶっています。
眉が薄いのと、つるっとした感じと、手首の細さと、暗めな服と、やけに大きな帽子から、不思議な雰囲気…悪党…黒魔術士っぽい…あとカラスっぽいな(怖い)
アルノルフィーニが2度結婚していることもあり、どちらの妻が描かれているかはっきりしていません。
最初の妻はこの絵が完成する前に亡くなっているため、普通に考えると2番目の妻ですが、生きている夫と、亡くなった最初の妻を一緒に描いた追悼絵画という見方もできたりと奥が深い…
純潔を表す白いレースをかぶっています。
服
夏なのにとっっっても暑そうな服着てますよね。
夫はタバード(ショートコート)で、もこもこの部分はセーブルという毛皮です。
妻もこれまた厚みのある暑そうなドレスで、もこもこ部分はアーミン(白テン)の毛皮です。
どちらの毛皮も非常に高価です。
緑色は希望や献身を表しています。
さらに当時、布を緑色に染めることはとても難しかったため、高価でした。
妻が膨れたお腹に手を当てているので、妊婦さんかと思いきや違います。
当時の流行ファッションです。
また、2人の服の裾の長さ(夫は短く、妻は長く)も対比させてバランスをとっています。
手
手を繋ぐジェスチャーは、結婚の契約を表しています。
言われないと気づかないくらい違和感無いのですが、繋いでいる夫の腕が短いんです。
この繋ぎ方でどうしても描きたかったんでしょうね〜ということで、この手の繋ぎ方には別の意味があるのでは?なんて議論されてたりもします。
また、2人の手の繋ぎ方に注目すると、「左手結婚」、つまり身分違いのもの同士の結婚だったのでは?ともいわれています。
通常、正式な結婚の場合お互いに右手を握るのですが、この絵では、夫が左手で妻の右手を取っています。
このような貴賤結婚の場合、夫が亡くなると妻の身分は元のランクまでダウン、妻にも子供にも相続権はありません。
そのため、結婚後、ある程度の財産を夫が渡すのですが、そのシーンが描かれているのでは?という説もあります。
犬
この小さな犬は忠誠を表しており、夫婦間の貞節を象徴しています。
さらにこの時代、犬を飼えるのは裕福な証です。
赤いベッドと支柱の飾り
右にある赤いベッド、寝室ではなくてなぜ客間にあるかというと、見せびらかすためです。
ベッドに高価な赤いウールをかけてあります。
家の中にあるものでベッドが一番高価なので、来客に対して自分たちの富をアピールするために置いてあります。
ベッドを椅子として使用します。
ベッドの支柱には聖マルガリタか聖マルタだと思われる彫刻像があります。
2人ともドラゴンが持ち物なので、判別がつきません。(聖〜とつく人物を見極めるために、その人を象徴する持ち物がそれぞれにありますがよくカブる)
聖マルガリタは妊婦と出産の守護聖人、聖マルタは主婦の守護聖人です。
カーペット
ちらっと見えているカーペットですが、これも大変高価な物でした。
高価な物なので普通はテーブルクロスとして使いますが、それすら床に敷いて使っちゃうというお金持ちアピールです。
オレンジ
しれっと置いてあるオレンジ。
なんで置いてあるかというと、これも富アピールです。
当時オレンジは非常に高価でした。
また、オレンジは、純粋さや無垢さを意味し、人間の現在を象徴する禁断の果実でもあります。
シャンデリアと1本のろうそく
真鍮のシャンデリアも見てわかるようにとっても高価な物です。
1本だけ灯っているろうそくは、キリストを表す一方、祝婚の象徴でもあります。
ヤン・ファン・エイクはカンピンに影響を受けているので、カンピンの「受胎告知」のろうそくの描写をマネしたのかもしれません。
これとは全く別の考え方もあり、夫側のろうそくは灯っていて、妻側は灯っていないことから、妻は死んでいる説なんかもあります。
この説とは別で、結婚を表しているとも解釈できます。
凸面鏡
凸面鏡は小さな鏡で広い範囲を見渡せるため、全てを見通す神の目を表しています。
夫婦以外に人が2人映り込んでいることがわかります。
赤い方は、ヤン・ファン・エイクだと考えられています。遊び心。
この鏡に映る2人と同じ場所に鑑賞者が立つように考えられて描かれています。
凸面鏡を囲っているのは、キリストの受難を描いたフレームです。
下から右回りに、ゲッセマネの祈り、キリストの捕縛、ピラトの前のキリスト、鞭打ち、十字架の道行き、磔刑、十字架降下、埋葬、黄泉への下降、復活のシーンが描かれています。
こんな小さなところなのに、何のシーンか判別できるように描いてるの、すごすぎる…
夫側の左半分はキリストが生きていた時の話、妻側の右半分はキリストが死んでからの話だったりするので、この妻は亡くなった最初の妻では?なんて言われていたりもします。
壁の文字
凸面鏡の上には「ヤン・ファン・エイクここにありき。1434年」というサインが壁に書いてあります。
面白いのは、凸面鏡に小さく描きこまれた部外者2人と、このサインで、この絵は結婚契約の絵だとわかるようになっているところです。(15世紀、結婚は2人の証人がいればどこでも成立)
ロザリオ
水晶のロザリオが掛かっています。
水晶は「純潔」、ロザリオは「結婚の美徳」を表します。
花婿から花嫁へロザリオを贈るのが習慣でした。
ほうき
ほうきは家事や貞節の象徴です。
ロザリオと合わせて、キリスト教義の「祈りと労働」を暗示しています。
サンダル
脱ぎ捨てられた木靴は、「聖なる場所では履き物を脱ぎなさい」という聖書の言葉に由来し、ここが婚姻の神聖な場所であると示しています。
2人の靴の脱ぎ捨て方(つま先がくっついているか、かかとがくつっているか)にも意味があると考えられていますが、現時点では謎のままです。
豪華な衣装や高価な品々から、2人は貴族のように見えますが、この木靴(市民の履きもの)があることでブルジョワ階級だとわかります。
構図
シャンデリアの広がりと、夫婦の繋いだ手の形が呼応しています。(上で腕の長さが不自然と書きましたが、構図のためだったのかもしれません。)
これは偶然ではなくて、中央の凸面鏡へ視線を誘導するためです。
秘密の天然油
この絵を描くために、フランドル地方の木や植物からとった天然油を使用しています。(当時は絵の具がないので、自分で作る必要があります)
ヤン・ファン・エイクは、40種類以上の油を使っていたようですが、どんな油だったのか現在でも全ては解明されていません。
まとめ
ヤン・ファン・エイクはとにかく絵が上手い…。
高価なものをこれでもか!っていうくらい描き込んでいるのに、嫌味っぽくないのがさすがヤン・ファン・エイクって感じです。スタイリッシュ…!
真鍮のシャンデリアや毛皮、布の質感、ロザリオや凸面鏡のフレームのツヤッとした光の反射具合、ほうきや犬の毛など、質感が絵で再現されています。
材質の違うものを描き分けられる圧倒的画力…!
そのために、様々な技法を駆使して描いています。
さらにさらに!ベッドの赤、妻の服の緑など補色を用いることによって、画面が華やかになっています。色の使い方も上手い!
今から600年近く前に描かれた絵なのに?!?すごすぎない?!?!
・《アルノルフィーニ夫婦像》は結婚の契約のシーンを描いている ・様々な技法を駆使してリアリティーのある絵を描いた ・描かれたモチーフひとつひとつに意味がある