こんにちは!
今回は、プッサンの《アルカディアの牧人たち》を解説します。
早速見ていきましょう!
アルカディアの牧人たち
ニコラ・プッサン《アルカディアの牧人たち》1638-39年
真ん中にある石の塊は、お墓です。
お墓の周りで何をしている絵なのかというと…
アルカディアとは?
ギリシャのペロポネソス地方に古代から現代まである地名です。
16世紀初頭のイタリアの詩人サンナザーロによる詩「アルカディア」により、「牧人の楽園」つまり「理想郷」の代名詞として使われるようになりました。
プッサンが影響を受けた画家ティツィアーノもこれを主題に《田園の奏楽》を描いています。
人間ではない?
高貴な身なりの女性は、なんと人間ではありません。
時の翁を打ち負かす歴史の擬人像です。
万人に訪れる死を示しています。
羊飼い
3人の羊飼いが描かれています。
墓碑銘の内容に驚いているようです。
墓碑銘
墓にはラテン語で「私はアルカディアにもいる」と刻まれています。
手の影に注目すると…
なんと石棺に鎌の形になって映っています。
ギリシャ神話の時の神クロノスの、命を刈り取る大鎌を表しています。
このことから、銘文の「私」は「死」を意味し、理想郷にも死があることを意味しています。
どこにいても私は訪れるということですね。
それは、中世からの「メメント・モリ(死を思え)」という警句であり教訓です。
ニコラ・プッサン《アルカディアの牧人たち》1629-1630年
プッサンは本作以前に、同名の作品を描いており、そのなかには骸骨(画面右上)が描かれていました。
そもそもこの主題に興味を持ったのは、下の作品からの影響でした。
グエルチーノ《われアルカディアにもあり》1621-1623年頃
グエルチーノの作品が、この銘文が登場する最初の絵だと考えられています。
これらのように死の象徴である骸骨が一緒に描かれていると、銘文の意味が明白でしたが、プッサンの2作目は骸骨が消えていることから、石棺の中の死者が言葉を語っているようにも見えます。
銘文の「私」を、石棺の中の死者と捉えると、「私もかつてはアルカディアにいた」と訳すことができ、追憶の意味合いが強くなり、過ぎ去った輝かしい昔を振り返っているようなノスタルジックな雰囲気を感じさせます。