フェルメール「地理学者」を超解説!日本の着物を着ている?

こんにちは!

今回は、フェルメールの《地理学者》についてです。

早速見ていきましょう!

地理学者

ヨハネス・フェルメール《地理学者》1669年

研究に没頭していた地理学者が、一瞬手を止め、窓の外を見ながら考え事をしています。

《天文学者》のページでも解説しましたが、《天文学者》の対の作品として描かれたと推測されているのが《地理学者》です。

モデルはもう1枚の絵にも登場するあの人

 

地理学者のモデルは、《天文学者》のモデルでもある友人の学者レーウェンフックだと考えられています。

ヨハネス・フェルメール《天文学者》1668年

レーウェンフックはフェルメールと同い年等、彼については《天文学者》のページで紹介しています↓

フェルメール「天文学者」を超解説!神秘への期待を描いた絵?

2022.04.10

日本の着物

 

当時のオランダは海洋貿易が盛んでした。

彼が着ているガウンは、日本から輸入した丹前(どてら)、もしくは着物をガウンに仕立て直したものだと考えられています。

当時のオランダの富裕層や知識人の間では、日本の着物が「ヤポンス・ロック(Japonse rok)」と呼ばれて愛用されていました。

何度もポーズを描き変えていた

 

赤外線調査によって、フェルメールが地理学者のポーズを何度も描き直し、より自然なポーズに見えるよう模索していたことがわかりました。

一つは頭を高い位置に描き、背の高い帽子を被っていました。

もう一つは、頭を少し下に傾けて、より左側を向いていました。

おそらく地図を見ていたのでしょう。

最終的には、窓から遠くを眺める構図にして、インスピレーションを得た瞬間を描きました。

ディバイダ

 

彼は手に、世界を測定するのに必要な器具であるディバイダを持っています。

学者のポーズを変更したことから、このディバイダの位置も変更しています。

大げさな感じで描かれていたディバイダも、より水平に近い位置で、緩く握った感じに描き直しました。

それによって彼がこの道具を使って、2つの地理的位置の間の距離を測定し、計算し、そして転写する作業を止めたことがより説得力を持って伝わってきます。

ディバイダは形状がコンパスに似ているだけでなく、簡単な作業であればコンパスで代用できます。

壁の地図

 

壁に掛けられた地図は、ウィレム・ヤンス・ブラウが発行した航海図の一つだとわかっています。

17世紀初めのアムステルダムで作られたブラウ地図です。

これらはヨーロッパと北アフリカの海岸線を示し、実際に航海図で使用されました。

この地図では、北は地図の上部に描かれておらず、右側が北になっています。

たとえば、下の方にイタリア半島がありますが、90度回転しているのがわかります。

実際にある地球儀

 

戸棚の上の地球儀は、わかりにくいのですがインド洋が見えるように置かれています。

この海を多くのオランダ東インド会社の船が渡って行きました。

当時、まだ建国間もないネーデルラント連邦共和国の最も重要なアジア貿易の要所は、インドネシア、インド、そして日本でした。

この絵は、探検家が地球儀の白い部分を埋めるのに熱心であり、近代的な科学の合理的な方法を用いて自然界を調査するという時代の精神を良く伝えています。

ここでフェルメールは、注意深く構成された科学の進歩の比喩的なイメージを示しています。

この地球儀はフランダース出身の彫刻家であり地図製作者のヨドクス・ホンディウスが、アムステルダムで1600年頃に制作したものです。

彼は、地球儀と天球儀(こちらは《天文学者》に登場)をセットで売りました。

この対の地球儀と天球儀は、宇宙の統一性を形成し、この2つの絵画の統一性も強調しています。

消えた紙きれ

 

スツールの上には、真鍮製の直角定規があります。

元々は、この横に紙切れがありましたが、後に上塗りされました。

よく見ると、その輪郭を確かめることができます。

陰で暗い前景に白い部分があると、鑑賞者の注意をそらし、全体の構図の邪魔になったのかもしれません。

 

さらに、無造作に床に転がっている、明るい色の地図に近すぎたかもしれません。

デルフト製のタイルと椅子

 

オランダ東インド会社の貿易により、裕福な者だけが手に入れることのできる貴重な磁器が中国から輸入されました。

中国の職人技に感銘したフェルメールの故郷であるデルフトの陶工は、比較的手頃な価格の代替え品を製造しはじめました。

これには地理学者の書斎の幅木に見られるような、具象的装飾をほどこしたタイルなどがありました。

椅子張に装飾的な花のモチーフのある椅子も、おそらくデルフト製でしょう。

タペストリー

 

テーブルの上にあるタペストリーは、人物に対して後退した領域を形成していますが、一方で絵の空間の中で何か大きな、あまり面白くないものを隠しています。

 

フェルメールは折り目の頂点に小さな黄色と青のドットを描いています。

遠くから見ると、左側から差し込む日差しの錯覚を作り出し、生地の表面を照らしているように見えます。

対比

 

窓は室内と外の世界を、スツールとカーペットは地理学者と鑑賞者の距離を作り出しています。

2つのサイン

不思議なことに、フェルメールはこの作品に二度署名をしています。

両方とも本物の署名だといわれています。

戸棚のサイン

 

1つ目は、戸棚の扉にある「IVMeer.」で、モノグラムのイニシャルです。

壁のサイン

 

2つ目のサインは、キャンバスの右上の角の壁にあり「I.Ver Meer / MDCLXVIII」と日付も入っています。

この絵は、「天文学者」が描かれた1年後の1669年、フェルメールが亡くなる6年前に描かれました。

レンブラント作品との類似

レンブラント・ファン・レイン《ファウスト》1652年頃

レンブラントが16世紀の錬金術師ファウストを描いた作品です。

《地理学者》の男性とは反対の方向を向いていますが、ほぼ同じポーズで描かれています。

そのため、フェルメールはこの作品を参考に本作を制作したのかもしれません。