こんにちは!
今回は、聖杯探しの旅に出たボールスの物語についてです。
早速見ていきましょう!
目次
聖杯探究 ボールスの場合
ハワード・パイル《『ランスロット卿とその仲間の物語』の挿絵「ボールス卿」》1907年
隠者の助言
聖杯探しの旅に出た騎士ボールスは、まず賢明な隠者のもとで過ごしました。
隠者はボールスの懺悔を聴き、罪の消滅を宣言し(というのも聖杯は罪のある人の前には現れないため)、コルビン城で食卓について聖杯から食べ物をいただくまでは、パンと水以外のものは口にしないよう、助言しました。
ボールスは、このアドバイスの意味が理解できず不審がりながらもそう約束しました。
血だらけの弟を発見
挿絵 ボールスとライオネル
二本道の分かれ目で、ボールスは、2人の騎士に鋭いとげの付いた木の枝で激しく打たれながら運ばれている、全身血だらけボロボロの弟ライオネルを発見します。
ライオネルは、(強がって)全く痛みがないかのように、ただ黙って残酷な仕打ちに耐えていました。
乙女の危機
ボールスが弟を助けようと身がまえた瞬間ふと横を見ると、馬に乗ったある騎士が美しい乙女を誘拐し、追っ手から逃れるため、森の中の奥深くへ行こうとしているのが目に入りました。
ボールスに気付いた乙女はありったけの声をふりしぼって「ああ騎士さま、どうか助けてください!」と叫びました。
弟か乙女かの究極の選択
ボールスはどうしてよいかわからず悲嘆にくれました。
このまま弟を敵の手の中に残したら、二度と弟の無事な姿を見ることはないだろう。
とはいえ、娘を救わなければ、娘の操は踏みにじられ、助けを拒んだ責任を免れないだろう。
ボールスは涙を流しながら天を見上げて「お慕いするイエス・キリストさま、弟の命をお守りください。私はあなたを愛するがゆえに、慈悲の心をもって、 かの騎士の毒牙から娘を助けます」と言いました。
そしてボールスは馬を駆って、略奪者のあとを追っていきました。
ただのザコキャラ
騎士に追いつくとボールスは「娘を放しなさい。さもなくば命はないぞ」と叫びました。
これを聞いて、騎士は娘を地面におろしました。
その騎士は、槍がないにもかかわらず、盾をかまえて剣をぬき、ボールスにむかってきました。
しかしボールスの強烈な槍の一撃は騎士の体を貫き、深く突き刺さり、あまりの苦痛に騎士は気を失ってしまいました。
ボールスは娘に近づいて、「お嬢さん、もう大丈夫ですよ」と声をかけ、彼女を家まで送り届けました。
娘が無事何事もなく帰ってきたのを見て、父親はたいへん喜び、泊まっていくよう熱心に勧めましたが、弟のことが心配なボールスはこれを断り、いそいそと去ってゆきました。
黒い駿馬に乗った謎の人物
ウィリアム・ヘンリー・マーゲットソン《『アーサー王とその騎士の伝説』の挿絵「ボールス卿は馬に乗った僧衣の男に会いました」》1914年
ボールスは馬の足跡を頼りに、弟のあとを追ってゆき、長い間探しまわりました。
ある時、黒い駿馬に乗っている僧衣をまとった男と出会い、「騎士どの、何をお求めですか?」と聞かれました。
ボールスは、「弟を探しています。しばらく前に、2人の騎士に鞭打たれているのを目にしたのです」と答えました。
「ああ、ボールスよ、自分を責めてはいけませんぞ。また、絶望なさらぬよう。残念ながら弟さんは亡くなった」
こう言うと男は茂みの中に横たわっている、殺されたばかりの屍体をボールスに見せました。
ボールスには確かに弟の変わり果てた姿に見えました。
あまりの悲しみに彼は気を失ってその場に倒れ、長い間そこに横たわっていました。
意識を取り戻すどボールスは亡骸にむかって「愛しい弟よ、このようにお前と離ればなれになってしまったからには、私はもはや心から喜びを感じることはあるまい。神さま、どうか私をお助けださい」と言いました。
その後ボールスは遺骸を軽々と抱きあげ、鞍の後部に乗せました。
美しい塔
そしてその男に「遺骸を葬ることのできる礼拝堂をご存じないですか?」と尋ねました。
「こちらにいらっしゃい。近くにひとつあります」と男は言いました。
しばらく進んでゆくと、 美しい塔が見えてきました。
その前にはたしかに、古ぼけたささやかな礼拝堂らしきものがありました。
そこで2人は馬を降り、遺骸を大理石の墓の中に安置しました。
ボールスは周りを見回しましたが、聖水や十字架はおろか、イエス・キリストの臨在をしめすシンボルはどこにも見えませんでした。
「遺骸はここに残しなさい。今夜はこの塔で休みましょう。明日、私が弟さんの葬儀を執り行ないましょう」
2人は塔に入ってゆきました。
姫のトンデモな願い
ポールスは盛大な歓迎を受け、豪華な衣装をはじめとして、さまざまの贅をつくした品物を与えられました。
ある騎士が、「我らがお仕えする姫は、長い間遠くからあなたをお慕いし、こちらにいらっしゃるのをを待っていました。 姫が恋人にと望まれる方は、あなた以外にはいないのです」と言いました。
ボールスはびっくりして口もきけませんでしたが、姫がやってきてボールスのそばに座ると、2人は楽しそうにおしゃべりを始めました。
そして姫が、「一夜で結構ですから、私の願いを叶えていただけませんか」と愛を求めました。
ポールスは姫のことを憐れに思いましたが、禁欲の誓いを破るまいと固く決心していたので、困り果ててしまいます。
ボールスは「姫さま、誰であろうとそのような願いを叶えることは出来ません。それに、私の弟の遺骸が近くにあるというのに、そんなことをよくお口にできますね」と答えました。
「どうしても叶えていただかなければなりません。でなければ、私は悲しみで命が絶えてしまいます」と、 姫は涙を流しながら、このような私を哀れに思ってくださいと、嘆願しました。
なら、道連れにして死んでやる!
オーブリー・ビアズリー《『アーサー王の死』の挿絵「女性に似た悪魔がどのようにボールス卿を誘惑したか」》1894年
それでも心を動かさないボールスを見て、姫は家来たちに彼をおさえているよう命ずると、「私は今から身を投げて死にます。私を死なせた責任はあなたが背負うのですよ」と言いました。
そうして姫は12人の侍女をともなって、塔の胸壁の上によじ登りました。
ひとりの侍女が「お優しい騎士さま、どうかお情けを。姫の願いを叶えていただけなければ、私達はみんなここから飛び降りなければならないのです。たったそれだけのことで、私達を見殺しにするのですか」叫びました。
ウィリアム・ラッセル・フリント《『アーサー王の死』の挿絵「ああ、優しい騎士、ボールス卿、私たち全員を憐んでください」》1927年
ポールスは心の底から可哀想に思いましたが、例えあなた方の命を救うためであっても、罪を犯すわけにはゆきませんと答えました。
これを聞くと、侍女たちと姫はそろって塔のてっぺんから身を投げました。
これを見たポールスが十字を切ると、たちまち恐ろしい轟音と金切り声が響きわたり、侍女と姫は悪魔となって空中に飛び去りました。
そこでボールスがあたりを見回すと、塔も人々の姿も見えませんでした。
そこに残っているものはといえば、くずれかけた小さな礼拝堂と、自分自身の武具だけでした。
ボールスはひざまずき、悪魔の誘惑から守ってくれた神さまに感謝の祈りを捧げました。
ボールスは弟の遺骸はどうしたのだろうと大理石の墓の中を覗き込むと消えてなくなっていたので、あれも幻覚の一部だったのだろう、弟はまだ生きているのだ、と希望を抱きはじめました。
ボールスがなおも道を続けると、僧院を見つけ、神聖にして学識ある院長が、その日に起きたできごとの意味を説明してくれました。
死んだはずの弟
ウィリアム・ヘンリー・マーゲットソン《『アーサー王とその騎士の伝説』の挿絵「ライオネル卿は兄の不人情さを長い間ずっと考えていた」》1914年
次の日の朝、ボールスは馬に乗って道を進んでいくと、礼拝堂の階段の上に座っている弟を見つけました。
大喜びのボールスは馬を下り、「弟よ、いつここに来たのだ」と叫びました。
しかし、ライオネルは「お前は娘を助けようと、さっさと行ってしまって、命が危ない私のことを見捨てた。兄弟なのに…。なんて卑劣な裏切りだ。お前には死んでもらう!」と言いました。
弟の怒りに深く傷ついたボールスは、弟の前にひざまずき、許してくれと懇願しました。
しかしライオネルはこれをきっぱりと拒絶し、これ以上の話し合いを拒否しました。
あまりにも理不尽
ライオネルは馬にまたがり、ボールスに向かって、「さあ、身構えろ! 馬に乗れ!乗らないなら、そこに突っ立ったまま殺してやる!」と叫びました。
それでもボールスは弟の前にひざまずき、泣きながら、「弟よ、慈悲を!許してくれ。殺さないでくれ。兄弟は互いを大切にすべきではないのか?」と言いました。
しかし、悪魔によって兄を殺したいという強烈な欲望を心の中にかきたてられていたライオネルには、ボールスの言葉は全く響きませんでした。
ボールスが一向に立って戦おうとしないので、ライオネルは馬を走らせ、ボールスに体当たりしたので、彼は地面に叩きつけられ、ひどい傷を負いました。
さらにライオネルはボールスを馬に踏ませ、ボールスの骨をバキバキに折りました…。
あまりの苦痛にボールスは、このまま死んでしまうのかと思いながら、気を失ってしまいました。
報われなさすぎる助っ人
ライオネルは、ボールスが気を失っている間に首をはねようと、兄の甲をぐいとつかみ、紐をはずしました。
ちょうどそのとき神の御こころによって、円卓の騎士の1人コルグレヴァンス(別名カログレナント)が通りかかりました。
コルグレヴァンスは、ライオネルが兄を今にも殺そうとしている光景を目の当たりにすると、慄然として立ち止まりました。
コルグレヴァンスは馬から跳び降り、全身の力をこめてライオネルの肩をつかみ、後ろに引き戻して叫びました。
「ライオネルよ、一体どういうつもりだ?自分の兄を殺そうなど気でも違ったのか?ボールスはまたとないほど素晴らしい騎士なのだぞ。私も騎士と名のつく以上、このようなことを見過ごすわけにはゆかない」
「何だと?ボールスに手を貸そうというのか?そんなことするなら、お前を先に殺す」
コルグレヴァンスは驚きのあまり返す言葉もなく、目を丸くしてライオネルを見つめました。
そして「何だと、ライオネル。本当に兄弟を殺したいのか?」
「まさにその通り。お前であろうと誰であろうと、邪魔はさせないぞ。こいつは私にひどい仕打ちをした。死んで当然なのだ」
ライオネルは再びボールスに飛びかかり、頭部に一撃を食らわせようとしました。
しかしコルグレヴァンスは2人の間に割って入り、まず自分と一騎討ちをせよと言いました。
これを聞いたライオネルは力いっぱいコルグレヴァンスに撃ちかかりました。
コルグレヴァンスのほうでも負けてはいません。
闘いは長く続きました。
そのうちボールスの意識が戻りました。
ふたりが闘っているのを見て、いたく悲しく思いましたが、 ボールスは苦痛が激しくほとんど動くことができませんでした。
しばらくすると、ライオネルの優勢が明らかとなってきました。
コルグレヴァンスは深傷を負い、大量に出血していました。
コルグレヴァンスはボールスが見ているのに気がつき、「ボールス。助けてくれ。死にそうだ。君を助けようとしてこうなったのだ」と呼びました。
ボールスは懸命に立ち上がって、甲をかぶりましたが、少しでも動いたら気絶しそうで、そろりとしか動けません。
もはや助からないと悟ったコルグレヴァンスは、魂の救済を神に祈り、ライオネルに打たれ死んでしまいました…。
神の裁き(もっと早く…)
ヘンリー・ジャスティス・フォード《『ロマンスの書』の挿絵「ボールス卿が兄弟を殺すことからどのように救われたか」》1902年
休むことなくライオネルは兄に激しく打ちかかりました。
よろめいたポールスは、神の愛にかけて、攻撃を止めるよう懇願しました。
しかし、ライオネルは聞き入れません。
ボー ルスは泣きながら剣を抜いて「愛しいイエス・キリストさま。弟の攻撃から身を守るのを、罪とはなさらぬよう!」と言いながら剣を振りかざしました。
しかし打ちおろそうとしたまさにその時、 ある声が聞こえてきました。
「ボールスよ、逃げなさい。打ちおろしてはならない。もしそうしたら、ライオネルを死なせてしまうだろう」
そしてその瞬間、ふたりのあいだに天から雷光が落ちてきました。
光は猛烈な炎を発し、ふたりの盾は焼けただれてしまいました。
そしてあまりの恐怖にふたりは地面に倒れ伏し、そのまま気を失ってしまいました。
暫くしてふたりは意識を回復し、お互いの顔をしげしげと見つめ合いました。
ついで2人の間の地面を見ると、あたり一帯は炎のために焼け焦げてしまっているいました。
再会と旅立ち
ウィリアム・ヘンリー・マーゲットソン《『アーサー王とその騎士の伝説』の挿絵「ボールス卿は彼を待っている船を見つけました」》1914年
そのとき、ボールスは再び例の声を聞きました。
「ボールスよ、立ち上がって出発しなさい。弟を残して、一路海を目指しなさい。パーシヴァルが待っています」
ボールスは自分の傷が癒えているのに気がつきました。
すぐさま馬に飛び乗り、海に向かいました。
浜辺につくと、白の豪奢な布を垂らした、素晴らしい船が停泊していたので、乗り込みました。
ただちに船は岸を離れました。
船の中で、パーシヴァルと再会し、大いに喜び、出くわした様々な冒険のことをお互いに話し合いました。
彼らの聖杯探しの旅はまだまだ続きます…。