こんにちは!
今回は、ミロの「星座」シリーズ全23点を紹介します。
早速見ていきましょう!
目次
連作「星座(Constellations)」

ジョアン・ミロは20世紀を代表するスペインの画家の一人で、シュルレアリスムの運動と深くかかわりながらも、独自の抽象的かつ詩的な画風を確立しました。
そのミロが第二次世界大戦中に手がけた連作が、「星座(Constellations)」です。
小さな画面に自由な線や星、生命を思わせる形象が散りばめられたこのシリーズは、全23点から成り立っています。この記事では「星座」シリーズの背景や特徴、鑑賞のポイントをわかりやすくまとめてみました。
シリーズ誕生の背景
第二次世界大戦下での制作

「星座」シリーズが描かれたのは、1940年から1941年にかけての、第二次世界大戦の混乱の中です。
スペイン内戦の影響やナチス・ドイツの進攻により、ミロはパリを離れ、南フランスやスペイン内のさまざまな地域を転々とします。
落ち着かない環境の中で、ミロは自由に大作を描くことが難しかったため、小さな紙や板に作品を制作するようになりました。
希望や精神的自由の象徴

戦争の闇に包まれるヨーロッパで、ミロは恐怖や不安からの逃避、そして新たな希望の追求を絵画に求めました。
「星座」シリーズは、過酷な現実の中にあっても失わない幻想や詩的イメージを表現しようとしたものです。
作品には夜空を連想させる背景や星・月などの天体的モチーフが多く登場しますが、これは宇宙的な広がりや自由な想像力を象徴し、戦禍における精神的な解放感をも暗示していると言われます。
シリーズの特徴
小さなフォーマットに描かれた宇宙的イメージ

ジュアン・ミロ《夜明けの目覚め》1941年
「星座」シリーズは、小さめの紙や板にグワッシュ(不透明水彩)や水彩、インク、パステルなど多様な画材を用いて描かれています。
黒い線と色鮮やかな点や形状が、夜空を思わせる背景と組み合わさり、星や生きものが飛び交うような神秘的な空間が生まれます。
抽象と具象のあいだを往来する形象

ジュアン・ミロ《女性と鳥》1940年
ミロの特徴的なモチーフとして、独自に変形された鳥や星、人の顔のようにも見える形が挙げられます。
これらは完全に抽象的ではなく、見る人によっては具象的なイメージにも受け取れます。
作品ごとに共通したモチーフがありながら、それらが配置されるリズムや配色には微妙な違いがあり、シリーズ全体を通して「ビジュアルな詩」とも呼べる統一感が生まれています。
手書きの線と鮮やかな色彩

ジュアン・ミロ《渡り鳥》1941年
細い黒い線で描かれる動きのあるフォルムと、明るい赤や青、黄色などの彩りのコントラストが「星座」シリーズの大きな魅力です。
線が自由奔放に走りつつも、作品には不思議な均衡が保たれています。
ミロは直感的な構成を重視しながら、独特のリズム感とバランス感覚で画面をまとめ上げています。
作品の見方
自由にイメージを広げる

ジュアン・ミロ《神の鳥の通過》1941年
ミロの作品は「こう見なければならない」という一義的な解釈がありません。
星のようにも鳥のようにも見えるモチーフを、自分なりに読み解き、物語や詩を紡ぎ出すことができます。
色彩や形の組み合わせに着目し、まずは自分の感覚に素直に反応してみましょう。
タイトルと照らし合わせる

ジュアン・ミロ《明けの明星》1940年
「星座」シリーズのそれぞれの作品には、詩的なタイトルがつけられているものがあります。
例えば「明けの明星」など、言葉から連想されるイメージを画面の中のモチーフと結びつけてみると、新たな発見があるかもしれません。
ただし、タイトルに縛られるのではなく、一つのヒントとして捉えましょう。
制作背景を想像する

ジュアン・ミロ《真夜中のナイチンゲールの歌と朝の雨》1940年
ミロは戦争下での不安や、故郷への思いを胸に「星座」を描きましたが、そこには社会的・政治的な直接のメッセージよりも、むしろ「個人の精神世界を守るための詩的想像力」が大きく表れています。
戦時中の混沌を思い起こしながら、あえて明るく遊び心のあるイメージが展開されている点にも注目してみましょう。
シリーズの評価と影響
戦後のモダンアートへの先駆的役割

ジュアン・ミロ《星の光のもとで髪をすく金髪の腋毛の女》1940年
「星座」シリーズは、シュルレアリスムの要素を取り入れながらも、単純化された形や自由な構図など、戦後の抽象絵画にも通じる新しい表現を示唆しています。
戦争の最中にあっても創作を続け、イメージの力で自由を表現したという点で、戦後のモダンアートに大きな影響を与えました。
アメリカでの紹介と国際的名声

ジュアン・ミロ《アクロバティックな踊り子たち》1940年
第二次世界大戦が終わった後、「星座」シリーズはアメリカへと渡り、ニューヨークの前衛芸術家や評論家たちに大きな衝撃と感銘を与えました。
ミロの抽象的かつ詩的な表現は、アメリカ抽象表現主義(Abstract Expressionism)やその他の前衛的な動きに刺激をもたらし、ミロの国際的評価を一層高めることとなりました。
「星座」全23点
ミロは全23点そろった形で展示して欲しかった
ミロは「星座」シリーズをひとつのまとまりとして考えていたため、理想としては全作品そろった形で展示してほしいと強く望んでいました。
しかし現在では作品は各地に分散してしまい、再度全作品が揃うことはなかなかないはず…ということで、ここに全23点集めてみました!







ジュアン・ミロ《傷ついた人物》1940年

ジュアン・ミロ《女性と鳥》1940年

ジュアン・ミロ《夜の女》1940年


ジュアン・ミロ《真夜中のナイチンゲールの歌と朝の雨》1940年

ジュアン・ミロ《大空を掠める13段目の梯子》1940年

ジュアン・ミロ《夜想曲》1940年


ジュアン・ミロ《夜明けの目覚め》1941年


ジュアン・ミロ《鳥の飛翔に囲まれている女たち》1941年

ジュアン・ミロ《若い白鳥(雛白鳥)の通過によって水面が虹色にきらめく湖のほとりの女性たち》1941年

ジュアン・ミロ《渡り鳥》1941年


ジュアン・ミロ《恋人たちに未知の世界を明かす一羽の美しい鳥》1941年

ジュアン・ミロ《薔薇色の黄昏は女性と鳥の性を愛撫する》1941年

まとめ
ジョアン・ミロの「星座」シリーズは、第二次世界大戦下という厳しい状況にもかかわらず、想像力と詩的イメージを絶やさずに描き続けた連作です。
星や鳥、太陽などのシンボリックなモチーフが、小さな画面いっぱいに繰り広げるファンタジーは、見る者に自由な連想や喜びをもたらします。
背景を知ると、作品の奥底に込められた作家の精神的な強さ、そして戦禍にも負けないアートの力を感じ取ることができるでしょう。
「星座」シリーズは、ミロにとっての「精神的宇宙」とも呼べる場所をかたちにしたものであり、現代に生きる私たちが見ても、そのエネルギーは色あせることがありません。
自分だけの物語を思い描きながら鑑賞することで、ミロの詩的な宇宙をより深く楽しめるはずです。