こんにちは!
今回は、黒い服の流行についてです。
早速見ていきましょう!
男の黒と黒いチョーカー
紳士は黒がお好き?
エドゥアール・マネ《オペラ座の仮面舞踏会》1873年
この絵をもし前世代の人間が見たなら、きっと異様に感じたでしょう。
なぜなら、男性がそろいもそろって黒い服を着ているからです。
元々男性はカラフルな衣装を好んだ
ジャン・オノレ・フラゴナール《恋の成り行き:逢引》1771-1772年
これまでの長い歴史の中で男性は、女性よりも色とりどりのファッションを身にまとってきました。
ジャック=ルイ・ダヴィッド《ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト》1801年
イアサント・リゴー《ルイ14世の肖像》1701年
脚線美という言葉は男性のものであり、白粉や口紅を塗りたくっていた時代があったり、戦争商売の傭兵すら、できる範囲内とはいえ、派手に着飾り、明るさと華美によって身分をひけらかしていました。孔雀みたい…。
なぜ服のが地味に?
それがここへきて突然、しかも近代化の恩恵でアニリン染料が開発され、衣装の色は新規さと美しさを増したというのに、男性は皆、黒色の服で個を埋没させてしまいました。
貴族趣味のボードレールが、「苦難の時代が必然的に生んだ制服」と嘆いたように、平等意識や民主精神からかもしれません。
もしくばファッションを牽引したダンディたちが、地味こそスマートと広く知らしめたからかもしれません。
あるいはまた、この黒好みが中産階級にまで波及したことからして、工場の排煙や汽車の煤による近代的汚れを目立たせない、という現実的理由のゆえだったのかもしれません。
理由はひとつではなく、複合的なものだとは思いますが、 驚くべきはこの傾向が現代に至るまでずっと続いているということです。
同じように見えて違う
もちろん完全にお酒落を放棄したわけではありません。
絵からは見分けがつかなくとも、実際にはそばへ寄るまでもなく、同じ黒でも布地の質や仕立によって、泥の差が出ます。
中に着る白いシャツもそうです。
パリッと糊をきかせ、シミひとつ無い状感にしておくのは、替えがたくさんあり、おおぜいの使用人の手を煩わせなければできません。
一見, 同じような服に見えて、自ずから貧富の差は明らかでした。
女性も黒服に
エドゥアール・マネ《すみれの花束をつけたベルト・モリゾ》1872年
こうした黒の流行は、いっときですが女性ファッションにも及びました。
メアリー・カサット《オペラ座にて》1879年
大流行アイテムの黒いチョーカー
エドゥアール・マネ《オランピア》1863年
とりわけ目立ったのは黒いチョーカーで、階級を問わず女性たちのほとんどが巻いていました。
エドガー・ドガ《エトワール》1876年
《オランピア》は娼婦、《エトワール》は下層階級の踊り子、《ゆりかご》は上流階級の女性です。
ベルト・モリゾ《ゆりかご》1872年
エドゥアール・マネ《鉄道》1873年
男の色であった黒を首に巻く女性たち…。
何やら彼女たちが意識的無意識的に感じていた、現世の束縛が透けて見えてきます。