こんにちは!
今回は、フェルメールの《信仰の寓意》についてです。
早速見ていきましょう!
信仰の寓意
ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》1670-1672年
本作は、フェルメールが描いた数少ない宗教画のひとつです。
本作は、非日常的な室内空間を描いた《絵画芸術》と同じ構図、同じ寓意画ですが、こちらはさらに寓意が強調され、かなり非日常的な絵になっています。
ちなみにフェルメールが描いた現存する寓意画はこの2つだけです。
『イコノロギア』を参考にして描いた
本作は、チェーザレ・リーパの寓意画集『イコノロギア』 の「信仰」の記述を参考にして描いた作品です。
そこには、次のようなカトリック的な信仰の寓意がたくさん載っています。
「深紅色の服の上に空色の上着を着て、月桂冠をかぶった女性の座像。足で地球を踏み、右手に聖杯、左手は本の上に。木の下にはキリストを表す教会の隅石(礎石)。 その下には潰れたヘビが横たわる。死を表す折れた矢と、原罪を表すリンゴが転がる。茨の冠が後ろに掛けられ、遠方にアブラハムによるイサクの犠牲が見える…」
見ての通り、この記述通りに描いたわけではなく、参考にしつつ、違うものに変えたり(画中画のヨルダーンス《キリストの磔刑》は「アブラハムによるイサクの犠牲」を置き換えたもの)、信仰にまつわるアイテムを付け足したりして描いています。
この記述を絵画化した作品は他にもありますが、フェルメールはそれを日常生活の場を舞台に描いています。
とはいえ、それが上手くいっているとはとうてい言えず、室内画としての不自然さは否めません。
そのため、この絵は、フェルメールとしてはあまり出来のよくない作品だと言われています。
女性のポーズ
胸に手をあてた女性の演劇的なポーズは、『イコノロギア』からきています。
また、彼女が身につけている真珠の首飾りは、処女性の象徴だともいわれています。
地球儀
例えば、女性が踏みつけているオランダの地球儀は、17世紀に全世界へ浸透していたカトリック宗教の支配と、現世を表しています。
この地球儀は、15世紀のオランダ人版画家で地図の制作を得意としたヘンリクス・ホンディウス作だと考えられています。
余談ですが、彼が制作した地図のタペストリーが、ディズニーシーのレストラン「マゼランズ」に飾れています。
ガラスの球体
天井からリボンで吊るされているガラスの球体を、女性が見上げています。
このような装飾品は、実際に当時のオランダの家庭でよくあったものなんだそう。なんておしゃれな…。今でもこういうインテリア売ってますよね。
当時の人々が魅力を感じたのはガラスの反射でしたが、この絵では、天上界、天国、信仰する人間の魂の象徴として描かれています。
十字架、聖杯、典礼書(聖書)
ミサでの祈りが記された典礼書(聖書説も)が置いてあります。
十字架、聖杯と合わせて、キリストを表すモチーフです。
また、黒檀の磔刑像は、フェルメールの遺産目録にも記されていました。
ヘビと隅石(礎石)
ヘビという原罪と悪魔の象徴が、キリストを象徴する隅石(礎石)に押し潰されています。
キリストは、「教会の礎石」であると考えられていました。
磔刑図
磔刑図はキリストの受難を表しています。
キリストが、人類の罪を償うために命を捧げています。
ヤーコブ・ヨルダーンス《キリスト磔刑》1620年頃
フェルメールは、上の絵の模写を所有していました。
本作はイエズス会の依頼で描いたものでは?と言われているのは、「イサクの犠牲」からイサクが神に捧げた羊をキリストそのものに置き換えた形で表現しているからです。
これはイエズス会では非常に重要な教義でした。
リンゴ
そして、その人類が犯した罪「原罪」が、床に転がるリンゴによって象徴されています(アダムとイヴのあのリンゴです)。
タペストリー
中世風のタペストリーが絵のカーテンのように描かれています。
これがあることによって、奥にある特別な空間を覗き見ているような印象や、現実的ではないもの、あるいは人知を超えたものを見ているといった印象を鑑賞者に感じさせます。
秘密の絵だった?
プロテスタントを正式な国家宗教として定めていた当時のオランダにおいて、カトリック信仰を示すこうしたものが一般人の家に見られたというのは実に興味深いことです。
当時の行政は、カトリック教徒に信仰を表には出さず私的な空間で行うことを求めていたため、家庭内で祈りをささげるのが通例でした。
また、フェルメールは、結婚を機にプロテスタントからカトリックに改宗していたようなので、画家の信仰心がこの絵には表れているのかもしれません。