テネットに登場するゴヤとルーベンスの贋作についての考察

こんにちは!

今回は、「TENET テネット」に登場する絵画を解説します。

早速見ていきましょう!

TENET テネット


TENET テネット(字幕版)

「時間の逆行」がテーマの変形バディムービーです。

映画に登場する全てのシーン、全ての人物、全ての小物に意味がありそうなこの映画の中から、登場した絵画について考察していきます。

なぜゴヤで、なぜこの絵なのか?

セイターの妻であり、美術品の鑑定士だったキャットは、彼女と親しかった画家アレポが描いたゴヤの贋作本物としてオークションに出品しました。

贋作と分かっていながらセイターが900万ドルで競り落とし、彼に弱みを握られることに…。

イーグルハンター

フランシスコ・デ・ゴヤ《イーグルハンター》1812-1820年頃

セイターに近付きたい主人公が、キャットの気を引くために用意したのが、アレポが描いたゴヤの贋作でした。

劇中では贋作として登場したこの絵、本当にゴヤが描いた作品が残っています。

親鳥がいないうちに、鷹の巣の中の雛を奪おうとしているハンターが描かれています。

しかしハンターの近くに、狩った獲物(うさぎ)をくわえて帰ってくる親鳥の姿が…!

ハンターは、自分の身に差し迫っている危険に気がついていません。

生と死の間で揺れ動いているような状況から、この絵は「He who would take will himself be taken(捕まえようとしていた者が捕まえられる)」ということわざを元に描いたのでは?ともいわれています。

つまり「ミイラ取りがミイラになる」ということわざと同じ意味です。

この緊張感に満ちたテーマ、映画の内容そのままですよね。

なぜゴヤなのか?

ラテン語の回文SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」は、上の図のように並べると、縦から読んでも同じになります。

映画では、SATOR(悪役セイター)AREPO(ゴヤの贋作を描いた画家アレポ)TENET(テネット)OPERA(物語の始まりオペラハウス)ROTAS(空港の警備会社ロータス)でした。

元の回文の意味は「農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする」ですが、「SATOR」を農夫ではなく、農耕神サトゥルヌスとも解釈することができます。

そしてサトゥルヌスといえば…

フランシスコ・デ・ゴヤ《我が子を食らうサトゥルヌス》1820-1823年

ゴヤのこの絵があまりにも有名です。

ローマ神話に登場するサトゥルヌスは、将来、自分の子に殺されるという予言に恐れを抱き、5人の子供を次々と呑み込んでいったそのシーンを描いています。

また、サトゥルヌスは、ギリシャ神話の時の神クロノスと同一視されています。

子殺しと時、どちらも映画のストーリーと密接な関係がありますね。

なぜルーベンスの絵が出てきたのか?

ピーテル・パウル・ルーベンス《女性の研究》1628年

キャットの裏切りに対して、セイターが彼女に見せたのがこの絵の贋作でしたね。

この絵、何なのかというと…

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ディアナとアクタイオン》1556-1559年

ティツィアーノの最高傑作ともいわれているこの作品を、ルーベンスが模写したものです。

画面右の月の髪飾りを付けているのが月の女神ディアナ、左の驚いている男性がアクタイオンです。

女神の水浴を偶然目撃してしまったアクタイオンは、女神の逆鱗に触れ、鹿の姿に変えられてしまい、自分の猟犬たちに食い殺されてしまいます。

劇中の不穏なシーンで、これまた不穏なシーンを描いた絵の模写が登場していました。

また、ルーベンスも、サトゥルヌスを描いていました。

ピーテル・パウル・ルーベンス《我が子を食らうサトゥルヌス》1636-1638年

そのため、ルーベンスの贋作が登場したと考えることもできます。

セイターは、内心どう思っていたにせよ、子供を虐待するわけでもなく、好きなことをさせてあげていました。

そんな彼が「唯一の間違いは子を設けたこと」となぜ言ったのか謎でしたが、サトゥルヌスがセイターだとすると、自分の死に子供が関わっているとも考えられます。

そうなってくると…といろいろと考えることができるのがこの映画の面白さですね。