こんにちは!
ホガースの物語画シリーズ『当世風結婚』です。
早速見ていきましょう!
『当世風結婚』(1743年)
全6枚の絵からなる物語です。
舞台は18世紀ロココの時代、没落貴族の息子と成金商人の娘が結婚することに…
1. 結婚の契約
かつらを着けて、極めて尊大な顔つきをしているスクアンダー伯爵。
「Squander」は「浪費する」という意味であることから、商人の娘を貴族の一族に受け入れるのと引き換えに、おそらくかなりの額を要求していると読み取ることができます。
伯爵は、家系図を指差して血筋をアピールしています。
包帯を巻かれた痛風にかかった足を、家紋で装飾された足台にのせている姿から、彼の自堕落な性格がよくわかります。
痛風は「金持ちの病気」として知られ、贅沢な食事と上質のワインの摂取過多が原因だと考えられていました。
窓の向こうに足場を組んだ壮大な建物が見えます。
これは伯爵の新しい邸宅で、伯爵の無分別な浪費のスケールを示すために描かれています。
工事は未完成で、伯爵が手持ちの資金を使い切ってしまったということを示唆しています。
テーブル挟んで左は、地位が欲しい大商人。
結婚の契約を詳細に調べています。
両家の利益が合致し、結婚することに。
会計士はスクアンダー伯爵に書類を見せ、おそらく新しい邸宅のためにかさんだ借金の額を説明しています。
未払いの請求書と結婚の契約書を並置することで、結婚が2人の父親たちの間の皮肉な商取引であることを風刺しています。
悲しげな大商人の娘にささやきかけるのは、伯爵家お抱えの弁護士シルバータング(「弁の立つ」の意)。
なよなよとした伯爵の息子は未来の花嫁ではなく、鏡に映る自分を見ていることからも無関心でナルシストだということがわかります。
最新のフランスファッションに身を包んでいることから、彼がヨーロッパ大陸を訪れていたことがわかります。
父親のように彼もまた、放蕩生活を送っています。
首にある黒いアザは、世間では「フランス病」と呼ばれた梅毒の症状です。
花嫁と花婿の間の壁に、メデューサの絵が掛けられています。
1597年に製作されたカラヴァッジョの《メデューサの首》と似ています。
ギリシャ神話に登場する髪が蛇になっているこの怪物は、やがて不釣り合いな2人の身に起こる災難を示しています。
短い鎖で繋がれた犬からもわかるように、2人は上手くいかなそうな雰囲気が漂っています。
2. 新婚夫婦
新婚とは思えない空気感の2人。親が勝手に決めた相手だからお互いに興味なし。
夫は朝帰り、そのことは、ポケットに入っている女性もののナイトキャップを、飼い犬が引っ張っていることからわかります。
夫の足元には、女性用の帽子と折れた剣が転がっていますが、この剣は、彼が不能であることを示しています。
妻は妻で賭けトランプに明け暮れた疲れで伸びをしつつ、手に持つ手鏡で一緒にいた愛人にサインを送っています。
妻の近くの暖炉には、横顔の男性の浮彫があり、すでに夫以外の愛人がいることを暗示しています。
呆れ顔の会計士は大量の請求書を持って出ていきます。
3. 医者の診察
夫と愛人(右)が藪医者の元へ行きます。
夫が座っている椅子には処方された軟膏が置いてあったり、愛人は口の痛みを訴えたりと、2人とも梅毒の症状が出始めています。
この首の大きな黒いシミは、梅毒を患っている人に出る症状です。
4. 化粧の間
当時、上流階級の女性は、朝の身支度を公開することが公式行事であり、上流階級の社交の場でもありました。
当時、音楽を聴きたい!となったら、生演奏してもらうしかありません。(左側)
客人の白いドレスで手を広げているちょっとやばそうな人は音楽に酔いしれています。
黄色のドレスを着た妻は、右にいる仮面舞踏会の絵を指差した弁護士からなにやら紙をもらいます。怪しい関係です。
ちなみに頭に白い角のようなものがいくつかある人、あれは髪をカールさせるためのカーラーをしています。
6枚の中で一番面白くて見所満載なのはこの絵です。
例えば、壁に掛かっている絵画、元ネタがあるんです!
いろんな画家に描かれた人気の主題です。
例外として左上は、この弁護士の肖像画ですね。特別な存在なんだなぁと思わせる1枚です。
ホガースの絵の該当部分を最初に、比較の画像を後に添付しますので、比較して見てみてください!
その下、「ガニュメデスの誘拐」は、美青年すぎるガニュメデスを自分のものにしたいゼウスという神が、鷲に変身してさらっているシーンです。
ピーテル・パウル・ルーベンス《ガニュメデスの略奪》1636-1638年
中央、「ユピテルとイオ」は、これまたゼウス(ユピテル)が雲になって可愛いイオを誘惑しています。
コレッジョ《ユピテルとイオ》1531-1532年
一番右が「ロトの娘たち」で、いろいろあって男性が父親しかいない、子孫を残すために、実の娘たちが父親に酒を飲ませて泥酔させて寝るという、なんとも気持ち悪い話です。
シモン・ヴーエ《ロトとその娘たち》1633年
さらにさらに!右下の黒人の男の子のところにあるバスケットの中のお皿には、
「レダと白鳥」という、またまたゼウスが今度は白鳥に変身して人妻レダを誘惑…
レオナルド・ダ・ヴィンチ《レダと白鳥》のチェザーレ・ダ・セストの模写 1515年 – 1520年
これらの絵からわかるように、弁護士との浮気や、夫からの略奪、不貞を表す手助けをしています。
5. 安宿
先ほど渡していた紙がここで繋がってきます。
足元には仮面などが転がっていることから、仮面舞踏会後なことがわかります。
場面は怪しげな宿、2人の仲を怪しんで後を付けていた夫と喧嘩になり、夫は刺し殺され、刺した弁護士は窓から逃げ、妻は夫に謝ります。
6. 夫人の死
実家に戻った妻は、愛人の弁護士が絞首刑になったことを足元にある新聞で知り、全てに絶望、服毒自殺します。
乳母は妻の子供を抱き抱え、母に最後のキスをさせます。
そんな妻の子供は、先天性梅毒で頬に斑点、足は義足であることから、1枚目の絵で伯爵が家系図を見せびらかすほどの家もここで断絶。
父親は死後硬直が始まる前に金目な結婚指輪を抜き取る。商人魂。
〜バットエンド〜
という節度をもって生活しようっていう戒めのお話でした。
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