こんにちは!
今回は、カサット《オペラ座にて》についてです。
早速見ていきましょう!
オペラ座にて
メアリー・カサット《オペラ座にて》1879年
観劇よりも人間観察
当時オペラ座といえば、女性たちが華やかに着飾って出かけるブルジョワ階級に大人気の社交場でした。
今とは違い、純粋に劇を見たくて行くというよりも、男性なら美しい女性を見に、女性なら着飾った姿を見られるためにオペラ座に行きました。観劇は二の次です。
見る女性
流行の黒いドレスに黒い帽子の女性がオペラグラスを構えています。
ルノワールの《桟敷席》の華やかに着飾った女性と比べると、カサットの描いた女性は、そっけなくて色気のない女性に見えてきます。
性的強調の少ない黒い服に身を包み、彼女に熱い視線を送る男性や鑑賞者には目もくれず、一心に誰か(舞台を見ているようにも見えますが、この角度だと舞台より上の方しか映らないはず)へ視線を向けています。
ちなみにオペラグラスを持つ手は血管が浮かび上がっているのではなくて手袋をしているのでしょう。
また、通常であれば女性の優美さや華やかさを演出する扇が固く閉じられており、なにか強い意志のようなものを感じさせます。
見る男性と鑑賞者
遠くの座席からあからさまに身を乗り出して、舞台そっちのけでオペラグラスで彼女を見てる男性客がいますが、なんとも間抜けで滑稽な姿に見えてきます。
そして私たち鑑賞者もこの間抜けな男性と立場的には同じです。
絵の外にいる鑑賞者と絵の中の鑑賞者を対比させる知的なシャレがこの絵にはあります。
ルノワールは「男性が見て、女性が見られる」ということを絵にしていますが、カサットは「女性も非常に積極的に見る」という行為を絵にすることで、見られる対象ではなく、見る存在として描いています。
カサットはこの絵で、「女らしさ」というものを批判しているのかもしれません。
劇は二の次
上演中のはずなのに立っている男性がいます。
劇場に今入ってきたばかりなのか、立ち上がったのか…、どちらにせよ桟敷席での自由なふるまいが許されていたことがわかります。
メアリー・カサット《「黒い服の女性、桟敷席、左向き」のドローイング》1880年頃