こんにちは!
今回は、フェルメールの《真珠の首飾りの女》を解説します。
早速見ていきましょう!
目次
真珠の首飾りの女
ヨハネス・フェルメール《真珠の首飾りの女》1662年頃
虚栄への戒めの絵?
鏡の意味
西洋絵画では通常、着飾った姿を鏡に映して見惚れる女性の絵というのは、「虚栄、高慢、快楽への戒め」を表しています。
鏡は伝統的に自尊心の象徴とされ、世俗的なもののはかなさや一時性を表しています。
鏡の額縁は、ヨーロッパにはない熱帯性常緑高木の黒檀でできています。
贅沢な着色ガラス
贅沢な着色ガラスが窓にはまっています。
真珠
首飾りだけでなく、ピアスも真珠で、かなり大ぶりです。
真珠は聖母の純潔の象徴ですが、高価なものなので、虚栄心を表すこともあります。
メイク用品
テーブルの上に溶いた白粉を入れる容器と特大の化粧刷毛があることから、彼女がメイク済みなことがわかります。
高級な衣服
この毛皮のコートは正確には何の毛皮なのかわかっていませんが、アーミンだとしたらものすごく高価なものです。
かつては貴族だけが着ることのできた毛皮を着せることで、庶民が着飾った姿を揶揄し、「虚栄心」や「自己愛」への戒めを暗示していると考えることもできます。
フェルメールの6点の作品に同じ毛皮のガウンが登場しています。
これらの描かれているものから、女性は裕福な家庭のお嬢様もしくは奥様で、彼女が外出の支度をしているところだということがわかります。
牝牛の尿と虫が絵の具の原料
フェルメールがラピスラズリという宝石が原料のウルトラマリンという青色の絵の具を多用したことは有名ですが、実は黄色も多く使用しています。
この黄色の顔料は原料は、なんと…マンゴーの葉だけを餌として与えられた牝牛の尿を蒸発させて精製したものです。
このインディアンイエローは、15世紀頃からヨーロッパ輸入され始めた、インドのベンガル地方の特産品でした。
髪のリボンは、カーマインという絵の具で、南米、ペルーのエンジムシ(カイガラムシの一種)のメスが原料です…。
上下で分かれる光と影
テーブルの辺りを境に、上と下で明暗がくっきりと分かれています。
壁にもあえて何も描かないことで、窓から入る光が主役のような印象になり、少女の黄色い服が引き立っています。
髪に赤いリボンを描くことによって、鑑賞者の視線を少女のうっとりするような表情へと誘導しています。
受胎告知の絵?
リボンを結ぶ手のポーズ
首飾りには、現代のような留め金がまだ発明されていなかったため、絵のようにリボンを結ぶ必要がありました。
神の愛の光のような神々しい陽光と、少女の恍惚とした表情、そして手のポーズから、目に見えぬ大天使ガブリエルを前にしたマリア、つまり風俗画を装った「受胎告知」の絵だとする説もあります。
だとしたら、彼女がリボンを結んでいるのは見せかけで、今目の前で起こっている奇蹟に驚いて、両手を上げていることになります。
鏡の位置がおかしい
さらに、鏡に自分を写しているのだとしたら、立ち位置があまりにも遠く、鏡も小さすぎます。
消えた地図
椅子の上のリュートと同じく、初めは少女の上半身と重なるように、画中画として地図が描かれていたことがわかっています。
消えたリュート
丸い鋲がいくつも打ち付けられているスパニッシュチェアと呼ばれた革張りの椅子が置かれています。
暗くてわかりにくいのですが、背もたれの下部に赤い総飾りがついています。
また当初、この椅子の上に楽器のリュートを描いていたことが、X線検査でわかっています。
リュートは、複数の弦を弾いて和音を出すことから「恋人」を象徴するアイテムです。
地図とリュートの意味
もし、恋のシンボルであるリュートと旅を暗示する地図が描かれたままであれば、久しぶりに帰ってくる恋人と会うためにおしゃれをする女性の絵だと想像することができます。
しかしそれをフェルメールが意図的に消してしまったことによって、なんの絵なのかはっきりしなくなり、見る者の想像力をかきたてる効果を絵にもたらしています。
そのため、密かにカトリックに改宗していたのではないかと考えられている画家が描いた「受胎告知」だという説もあります。
フラ・アンジェリコ《受胎告知》1440年頃
「受胎告知」というのは、処女マリアが神の力によって、神の子(イエス・キリスト)を身ごもったことを大天使ガブリエルが告知するという聖書の有名なシーンです。
そうだとしたら、なぜこんなまわりくどい描き方をしたのかというと、プロテスタントの国であるオランダでは、偶像崇拝が禁止されており、上の絵のような「ザ・受胎告知」のような絵を描くことができきなかったからです。
なので、フェルメールはこっそり「受胎告知」の絵を描いたのかもしれません。