こんにちは!
今回は、フェルメールの《牛乳を注ぐ女》を解説します。
早速見ていきましょう!
目次
牛乳を注ぐ女
ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1660年頃
ミルクメイド
《牛乳を注ぐ女》は、欧米では牛の乳搾り作業に従事する女性を意味する「ミルクメイド」と呼ばれています。
しかし、実際に描かれている女性は低級の家事使用人で、台所担当の召使い(キッチンメイド)あるいは家政の女中(メイド)です。
手首から肘は色白手は重労働をこなしているせいか日に焼けていますが、手首から肘は色白だとわかります。
絵に描かれる上品で洗練された女性の腕には、このような肌の色調の違いが描かれることはありません。
ブレットプディング
テーブルの上に牛乳とちぎったパンがあることから、彼女はブレッドプディングを作っているのでしょう。
当時のオランダでは、乾燥して硬くなったパンを牛乳に浸して食べていました。
ずんぐりとした陶製の容器はダッチオーブン(蓋付きの鍋)で、中にはパンとカスタードが入っており、そこに牛乳を注いでいます。
鍋の左にあるピッチャーには、その調理に使うビールが入っていたと考えられています。
ちなみにパンが浸るぐらい牛乳を注がないとプディングが固くまずくなってしまうそう。
牛乳を少量ずつ注いでいるのは、分量が適切でなかったり、適宜に混ざらないとブレッドプディングがうまく出来ないからです。
メイドが丁寧に料理している様子を描いていますが、日々の生活の一場面を表現しようとしたのではなく、
女性の落ち着いた振る舞い、地味な衣服、思慮深い調理手順から、17世紀オランダで重視されていた美徳を、控えめだけどわかりやすく描き出そうとしていたと考えられています。
机
当初、机の四角形をフェルメールが意図的にゆがめて描いたと考えられていました。
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しかし近年では、上のような八角形の折りたたみ式の机の片方をたたんだ六角形の台だったのではともいわれています。
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ちょうどいい画像がなかったのですが、イメージとしては↑こんな感じです。
タイル
背景の壁の床との接地面にはデルフト陶器のタイルがはめこまれています。
左のタイルにはキューピッドの、
右のタイルには長い棒を持った人物の装飾画があります。
足温器
この場所に足温器を描くことで。女性と背景の壁との距離感が明確になっています。
さりげなく奥行きを示すために、足温器の前に小枝も描かれています。
白い漆喰塗の壁と牛乳から、この部屋が牛乳やバターのような酪農製品を料理するための「冷涼な台所」であることを示しているため、足温器は実用的な器具として置かれています。
足温器は、中に火のついた炭を入れると、上から熱が出てくる仕組みになっています。
絵の中に足温器を描くことで、冬の冷たい空気感が伝わってきます。
当時のほかのオランダ絵画では、足温器は使用者が座った状態で描かれているのに対し、この絵では女性が立っていることから、足温器は「勤勉な性格」を象徴しているのでは?ともいわれています。
消えたもの
地図
女性の背後の壁上部にかけられていた大きな地図(アムステルダム国立美術館は地図ではなく絵画だとしています)です。
17世紀のオランダでは、壁の装飾用品としての大きな地図は安価で手ごろだったそう。
これを塗りつぶして、何もない壁に変更することによって、鑑賞者の視線が自然と女性に集中するような効果をねらったのでしょう。
洗濯物かご
足温器のある位置に当初、大きな人目を引く洗濯物かご(アムステルダム国立美術館は裁縫箱だとしています)がありました。
X線調査で、フェルメールが壁の微妙な色調の移り変わりを表現するためにかごを塗りつぶしていたことがわかりました。
テーブルの上のパンかご、壁にもかごがあるため、モチーフの重複を嫌って変更したのかもしれません。
ほかのフェルメールの作品でも、下絵段階で存在していたものが、作品の主題をより明確にする目的で、構成を変更し、完成作品では除去していることがあります。
技法と素材
1番カラフルな作品
専門家によると、この絵が、フェルメールの作品の中で1番カラフルな絵なんだそう。
フェルメールの作品によく見られる伝統的な光の描写とくすんだ色合いは影を潜め、明るい色彩に彩られています。
当時他の画家は、青色といえばアズライトを原料とした顔料を使用するのが普通でしたが、フェルメールは天然石ラピスラズリを原料とする高価なウルトラマリンを多用していました。
西洋絵画では、青い衣装を着ている女性は聖母マリアを連想させることから、純潔な女性であることを意味することもあります。
黄色は、鉛スズを原料とした顔料を使用しています。
背景に描かれている白一色のシンプルな壁の描写は当時の画家としては珍しいような。
この作品では太陽の光を反射した白い壁が明暗豊かに描写され、漆喰で塗られた壁の凹凸をも表現しています。
そのほか、鉛白、アンバー、チャコール・ブラックなどの顔料を使用しています。
当時、絵具は画家自身が製作していたこともあり、顔料の調合方法は他の画家たちにも広く知られていましたが、おそらくフェルメールほど効果的に使用できた画家はいないといわれています。
メイドのゴツゴツ感と光
女性の描写に見られるざらざらとした質感表現は、絵筆を軽く叩くように使った厚塗り技法 によるものです。
左頬や黄色い服の左半身に、強調された暗い影を描くことによって、明るく光の当たる壁と対比させ、女性の存在を画面全体から浮き上がらせています。
メイドの右側の輪郭に細い白い線を描くことで、明暗のコントラストを強調して、その姿が壁に溶け込まないようにしています。
この白い輪郭によって、メイドはかすかに光っているようにも見えます。
女性の袖口に見えるごわごわとした質感のグリーンの部分は、衣服の他の部分に使用しているイエローとウルトラマリンを混ぜた絵具で、顔料が乾く前に別の顔料を重ね塗りして色を混ぜ合わせる技法が用いられています。
エプロンに表現されている艶から、イエローの胴衣よりも滑らかな布地がエプロンに使用されていることを描き出そうとしていたのでしょうか。
古いパン
パンの表面、パンの表面の植物の種、編まれたパン籠の持ち手などに、白い絵の具を点々と置き、光の粒が輝いているかのように見せるポワンティエと呼ばれる点描技法が使用されています。
実際にパンが光を反射することはありませんが、輝きがあればそこに視線が集中するため、あえて使ったのでしょう。
このようにフェルメールは、自然のままを描くのではなく、自然に見えるように描くのが得意な画家でした。
パンの柔らかい部分は細い線で渦を巻くように描いており、オーカーの顔料を使用してパンの皮が割れた部分の粗い質感を表現しています。
陶製の容器の近くの右のパン切れはイエローで太く塗られており、このパン切れが古くなってしけっていることを表しています。
割れた窓ガラスと光
窓の右列の下から4枚目の窓ガラスは割れていて、そこから入る光によって窓の木枠が明るくなっています。
そのすぐ下の窓ガラスの表面にはホワイトの顔料で細い引っかき傷が描かれています。
釘や釘を無理やり引き抜いた後にできたような穴や大小の凹凸が描かれています。
メイドの上にあるこの釘の影は、窓からの光と合っておらず、目の高さにある窓よりももっと高い位置に別の光源があることを示唆しています。
おそらく、壁のもっと高い部分にもう一つ窓があるのでしょう。
ピンで糸をとめて遠近を描いた
本作の女性の右手の上あたりに、ピンを刺した跡があります。
正確な構図を得るために、白い粉などをまぶした糸を何本かピンに結んで、画面の外側へ向けて張り、その糸をはじいてカンヴァスに白い跡をつけます。
その線をなぞって、窓枠など描いたと考えられています。
これは遠近法で描くための方法で、一点透視図法(線遠近法)といいます。
透視図法というのは、視点に近い物を大きく、遠い物を小さく描く技法です。
正確な透視図にするためには、消失点(もっとも遠い1点) からの距離に応じて、物の大きさと形状を正確に変化させる必要があります。
フェルメールは透視図法を好んで使用していましたが、他の作品では、遠近法を無視していることもあります。
絵画全体の構成上、必要とあれば正確さにこだわらず、より効果的なほうを採用し、柔軟に構図を決めていたようです。
実はアダルトな絵?
ミルクメイドの裏の顔
この作品が描かれる200年ほど前から、ミルクメイドやキッチンメイドは性愛や性交渉を想起させる存在で、男性の欲望をかきたて、家庭の名誉や秘密に悪影響を及ぼすような存在として表現されていました。
この絵は、メイドを愛情のこもった気品ある存在として扱った希少な作品のひとつといえますが、それでもなお、性愛を象徴する伝統的な寓意が描かれている作品でもあります。
キューピッド
夢想壁下部のタイルには、女性の性的興奮を暗示する、あるいは働きながら男性を空想していることを意味するキューピッドが描かれています。
しかし、この絵の場合はそういった意味合いよりも、メイドとしての他人への献身的な愛を表しているとも考えられます。
口の広い水差し
その他、性的な意味合いを持つものとして、口の広い水差しが女性の肉体の象徴として描かれています。
足温器
足温器は多くの画家が女性の性的興奮の象徴として描いています。
なぜかというと、足温器は、女性のスカートの下に置いて腰から下を温める器具だからです。