こんにちは!
今回は、レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》について解説します。
早速見ていきましょう!
目次
最後の晩餐
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》1495-1497年
縦4.20 × 横9.10メートルという超巨大な作品です!
食堂の壁に描かれた作品で、床から2メートル上に描かれています。
どんな絵?
十字架で処刑される前夜、イエスが12人の使徒との晩餐中に、「この中の1人が私を裏切る」とイエスが予言した瞬間の混乱を描いた作品です。
なぜこの絵が有名なのか
『最後の晩餐』のシーン自体は、人気の主題なので多くの画家が描いています。
その中で、なぜレオナルドの絵が一番有名なのかというと、表現の仕方を変えたからです。
ドメニコ・ギルランダイオ《最後の晩餐》1476年
他の画家の絵だと、裏切り者のユダは、一人だけテーブルの反対側に描くのがよくある典型的なパターンでした。
ルーカス・クラナッハ(父)、ルーカス・クラナッハ(子)《最後の晩餐》1547年
もしくは円卓で、一目でユダだとわかるように、一人だけ光輪が無かったり、上の絵の左のオレンジっぽい黄色の服の人物のように、わかりやすく銀貨30枚が入った袋を持っていました。
ちなみに黄色は「欺瞞」を表す色なので、絵の中でユダがよく着ている色でもあります。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》1495-1497年
一方、レオナルドの絵は、ぱっと見ユダがどこにいるのかわかりません。
見てすぐに裏切り者がわかるのではなく、誰もが裏切る可能性があり、この中の誰が裏切り者なのか、鑑賞者も絵の中の彼らと一緒に詮索する楽しみがあります。
それがこの絵のすごいところです。
登場人物
左から順に解説します。
食堂の壁画で、遠くから鑑賞するための作品なので、顔の表情というよりも、ジェスチャーでその時の心情を表現しています。
それぞれの使徒の手の動きに注目して見ると楽しいです。
イエスの近くにいる弟子ほど身振りが激しく、遠くなる程おとなしくなっています。
これはレオナルドが、「言葉」が波のように広がっていく様子を描こうとしたからでは?ともいわれています。
バルトロマイ
皮剥の刑で殉教した使徒です。
イエスの言葉を聞き取ろうとして立ち上がっています。
小ヤコブ
アルファイの子ヤコブです。
イエスと容姿が似ていた使徒です。
左手をペテロの方へ伸ばしています。
アンデレ
後で出てくるペテロと兄弟で、一緒に漁をしていたときにイエスに声をかけられて弟子になっています。
両手を上げて驚いています。
イスカリオテのユダ
彼が有名な裏切り者のユダです。
イエスを裏切る代わりに手に入れた銀貨30枚が入った袋を握っています。
左手はパンにのびていますね。
実はパンに手が伸びているのはユダとイエスだけなんです…!
ペトロ
身を乗り出し、隣のヨハネに何か耳打ちしています。
右手でナイフを握っています。
ヨハネ
ヨハネは「主は恵み深い」という意味です。
12使徒の中で最年少、中性的な顔立ちをしています。
『ダ・ヴィンチ・コード』では彼はヨハネではなくて、マグダラのマリア説を推していましたね。(レオナルドは女性的な男性を多く描いたのでなんとも言えませんが)
イエス・キリスト
よく見ると口が開いていますね。
「この中に裏切り者がいる」と今まさしく言った瞬間が描かれています。
イエスの後ろに窓がありますが、これが光輪の代わりをしています。
BBCドキュメンタリー「神の子」のために作られたCG画像
「イエス・キリスト」といえば、この絵のようなイメージがありますが、英BBCが、当時のユダヤ人男性の頭蓋骨などを元に、科学的実証主義的イエスだと発表した復元像は、浅黒い肌、黒い縮れ毛、黒ひげ、団子鼻という野性味溢れる見た目でした…。
トマス
右手の指を1本突き立てて、「裏切り者は1人だけですか」とイエスに問いかけています。
大ヤコブ
ヨハネの弟です。
フィリポ
フィリポは「馬を愛する者」という意味です。
マタイ
マタイは「神の賜物」という意味です。
両手をイエスに向け、イエスが何と言ったのかシモンに聞いています。
ユダ(ダダイ)
ヤコブの子ユダです。
12使徒の中にユダが2人いますが、裏切り者のユダではない方です。
シモン
シモンは「耳を傾ける、聞く」という意味です。
マタイとユダに説明しようとしています。
ユダはなぜ裏切ったのか
聖書には、悪魔がユダの心に入り込んでそうさせた、との記述があります。
そこから派生して、単なる金銭欲、イエスへの失望、もともと救世主など信じていなかった、神に操られた、自分を1番愛してほしかったのにそれが叶わないと知って裏切ったなどなど…
ユダは確かにイエスを裏切りましたが、まさか殺されるとは思っておらず、後悔から銀貨を神殿へ投げつけ、首を吊って自害しました。
テーブルの上
コップに入った赤い飲み物はワイン、丸いのはパンで、イエスを表すモチーフです。
イエスの時代では、ガラスは貴重だったため、このような食卓でワイングラスが使われることはなかったはずでした。
なのになぜ描かれているのかというと、レオナルドが生きていた時代の修道士たちが、このようなグラスを実際に使っていたからです。
魚料理があります。魚もイエスを表しています。
旧約聖書では、最後の晩餐が行われたのは、過越の祭りの日でした。
この日には、生贄の子羊を食べる習慣があったため、最後の晩餐の絵には羊料理が描かれるのが普通でした。
しかし、これもこの絵が描かれた当時の修道院では、肉ではなく魚が食べられていたため、メインディッシュを魚に変更して描いたそう。
レモンまたはオレンジらしき果物があります。
これは魚の風味をよくするためのものでしょうか。
トリック
イエスの右のこめかみの部分に点がありますよね?
これ、なんと釘を打った跡なんです!
なぜこんなところに釘を打ったのかというと、絵の中にトリックを仕掛けるためです。
一点透視図法というトリックで、これは、消失点(今回はイエスのこめかみ)を決めて、そこから放射線状に広げて空間を描く技法です。
こめかみに打った釘に糸を張って、テーブル、天井、床などの直線を描いていきます。
一点透視図法を用いたことによって、部屋の様子が立体的に見え、さらに、ある位置から見ると、絵画の天井の線と実際の壁と天井との境目が繋がり、部屋が絵の奥まで広がっているように見えるんです!すごい!
この部屋を再現すると…?
この絵の舞台となった部屋を再現すると、なんと奥行きが20メートルもあって、ものすごく細長い部屋になってしまうそう。
普通の部屋の間取りで描くと、後ろの窓が目立ち、鑑賞者の視線が窓に行ってしまうので、壁を後ろに下げて、手前の人物たちを強調しています。
イエスの近くにいる弟子ほど体が小さく、遠くなるほど大きいのも、中央のイエスを目立たせるためです。
珍しく完成した作品
24歳のとき、パトロンのルドヴィーコ・スフォルツァ公からの依頼で制作した作品です。
レオナルドはビックリするくらい凝り性なので、ほとんどの作品が未完です。
あの《モナ・リザ》も未完成です。
この作品は、そんなレオナルドの数少ない完成した作品のひとつです。
遅筆で有名なレオナルドですが、この作品は速い方で3年で完成させています。
とっても傷みやすい絵
壁画を描くときによく使われるフレスコではなく、板絵を描くときに使われるテンペラという技法で描いています。
レオナルドが透明感のある色彩を表現したくてテンペラを選んだと考えられていますが、テンペラは画層がもろく、さらに湿度の高い気候も手伝い、激しい侵食と損傷を受けることに…。
壁画完成から20年足らずで、レオナルド存命中の1510年頃には、目に見えるほど顔料の剥離が進んでしまっていたことが、当時の記録からわかっています。
残っていることが奇跡
16世紀から19世紀にかけて、大規模なもので5回、加筆修正されてきました。
・画面が剥がれ落ちるのを防ぐため、ニカワ、樹脂、ワニスなどを塗る
→ますますホコリやススが画面に吸い寄せられ黒ずむ&通気性が悪くなり、湿気がたまり、カビが発生、そして、塗ったニカワなどが下の絵具と一緒にポロポロ取れてくるという最悪の結果に…
・17世紀、食堂と台所の間を出入りするための扉が作られることになり、イエスの足元部分が失われる
→17世紀末には食堂ではなく馬小屋として使用されたため、動物の呼気や、排泄物によるガスで侵食が進む
・2度の大洪水で、壁画全体が水浸しに…
・1943年、アメリカ軍がミラノを空爆、食堂の右側の屋根が半壊、壁画は奇跡的に残った
→その後3年間屋根の無い状態が続く…(建物の設計図が残っていたため、復元)
・1977〜1999年、大規模な修復作業が行われる
→修復家ピニン・ブランビッラが1人で20年以上の歳月をかけて修復。
彼のおかげで、レオナルドの時代以降に行われた修復という名の加筆部分や黒ずみが除去され、レオナルドのオリジナルがよみがえりました!
世界遺産
この作品は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂に描かれおり、世界遺産として登録されています。