こんにちは!
今回は、ルーベンスの《パリスの審判》を解説します。
早速見ていきましょう!
目次
パリスの審判
ピーテル・パウル・ルーベンス《パリスの審判》1532-1635年頃
パリスの審判って何?
トロイアの王妃が、息子パリスを産む時に、国が炎上するという縁起の悪い夢をみました。
占い師たちはこの夢を、トロイアはパリスが原因で滅ぶと解釈し、王はその訴えを信じ、息子を殺すためイデ山に捨てました。
しかし赤子のパリスは羊飼いに拾われ、無事成人して自らも羊飼いになりました。
その頃天上界では、ペレウスとテティスの結婚式が行われていました。
神々の中でただひとりだけ招待されなかった神がいました。
それは、諍いと不和の女神エリスでした。
逆恨みした彼女は宴会に黄金のリンゴを投げ入れました。
そのリンゴには「最も美しいものへ」と記されていました。
美貌を誇っていたヘラ(ジュノー)、アテナ(ミネルヴァ)、アフロディテ(ヴィーナス)という三女神による奪い合いになってしまいました。
女神たちは判定を最高神ゼウス(ジュピター)に求めましたが、あまりに気が重いので(三女神が怖い)、その面倒な役目を、人間の男で1番美しい羊飼いのパリスに押し付けます。
これがパリスの審判です。
不運なパリス
羊飼いのパリスの本当の身分は、トロイアの王子でした。
パリスが例の黄金のリンゴを手にしています。
神の使者ヘルメス
ゼウスの息子で神の使者であるヘルメス(マーキュリー)は、翼の付いた帽子を被り、2匹の蛇が巻きついた杖、カドゥケウスを持っています。
彼に連れられた三女神がパリスの前に現れ、目の前で裸身をさらし、一番キレイなのは誰かと問いました。
神なのだから正々堂々と対決するのかと思いきや、3人とも、選んでくれれば見返りとして「こんなすごいものをあげるよ!」とパリスの気を引こうとします。必死の買収…。
最高位の女神ヘラ
ゼウスの姉で妻、神々の女王である結婚とお産の女神ヘラは、ベルベットのような鮮やかな赤と緑の房の付いたショールをまとい、パリスの前でポーズをとっています。
パリスには、潤沢な富と広大な土地、財産と権力を約束しました。
孔雀
ヘラのアトリビュートは孔雀です。
頭上の羽は冠のようで、宝石の目のような模様が長く優雅な尾にあります。
この目の模様は、百眼の巨人アルゴスが死んだ時に、その目をえぐり出して付けさせたものといわれています。
ヘラは後ろ向きなので、どんな表情をしているのかわかりません。
しかし彼女の孔雀がパリスの犬を威嚇していることから、ヴィーナスの勝利を知り、怒っていると想像することができます。
愛と美の女神ヴィーナス
愛と美と生殖の女神ヴィーナスは、愛の象徴であるバラと真珠を髪に飾っています。
ヴィーナスはパリスに、もし自分を選べば、世界で最も美しい女性、スパルタ王の妻ヘレネがパリスに恋をするようになるだろうと言いました。
パリスはこれに惹かれ、ヴィーナスへ黄金のリンゴを差し出しました。
キューピッド
キューピッドもヴィーナスと一緒に描かれることが多いです。親子なので。
キューピッドは黄金の矢を入れる矢筒を持っており、キューピッドの放つ矢に当たると恋に落ちてしまいます。
ヴィーナスはパリスとの約束を果たすため、この後ヘレネのところにキューピッドを送るのでしょう。
戦と知恵の女神アテナ
戦争と知恵の女神アテナは、もし黄金のリンゴを勝ち取ることができたら、パリスに戦いの勝利と本質を見抜く力を与えると約束しました。
兜とメドューサの楯
兜とメドューサの顔の付いた楯がアテナのアトリビュートです。
メドューサは、髪の毛が蛇でできている怪物で、一目見たものは石になるといわれています。
彼女は、ギリシャの英雄ペルセウスがこの怪物を殺す手助けをしました。
フクロウ
知恵の象徴であるフクロウも、アテナのアトリビュートです。
復讐の女神エリス(アレクト)
鞭を握り、威嚇するように空を飛んでいるのは復讐の三女神、エリニュスの内の一人、エリス(アレクト)です。
蛇の髪を持ち、血走った目をしています。
この鞭で打たれたものはもがき苦しんだ末に死にます。
右手には死の象徴として松明を握っています。
雷雲を呼び、災難が近いことを告げています。
エリスが描かれることによって、この絵の後に続く物語を予感させます。
パリスはメネラオス王の妻ヘレネをスパルタから連れ去ります。
これがトロイア戦争の引き金に…。
ヴィーナスの約束通り、ヘレネはパリスに魅了されますが、スパルタ側はヘレネを奪還のため、トロイアに攻め込んできました。
パリスの審判で選ばれなかったヘラとアテナがスパルタ側の味方をし、占い通りにトロイアは滅亡し、パリスも戦場での傷がもとで死んでしまいました。
三女神のモデルは妻
アテナは正面、ヴィーナスは横、ヘラは後ろ姿で描き、それぞれが白いショールを持っていることで、3人が連続しているように見えます。
3つの角度からその美しい裸体を楽しむことができるように描いています。
ルーベンスの最初の構想は、女神たちが服を脱ぐ場面でしたが、途中でテーマを審判の瞬間に変えたことから、女神たちの違う時間が共存することになりました。
ピーテル・パウル・ルーベンス《毛皮をまとったエレーヌ・フールマン》1636-1638年頃
モデルは全てルーベンスの2番目の妻エレーヌの可能性が高いと考えられています。
上の肖像画は、中央のヴィーナスと同じポーズをしています。
肌の透明感
この肌の透明感は、キャンバスではなくて、下塗りした滑らかな表面のオーク材を使ったことから得られたものでした。
表面が滑らかだと、油絵具を薄く塗ることができます。
ルーベンスは流れるような筆致で、暖かみのある赤、黄色、白に、わずかに青を加え、乳白色の肌を表現しました。
また、油絵具が経年劣化で薄くなってきているため、ルーベンスが制作過程で変更した構図が、今になって透けて見えてくるようになりました。
例えば、元々パリスの右足が描かれていた部分が、羊の下に見えたり…。(右足を突き立てているのは露骨で下品だということで変更したそう)
色の効果による錯覚
空や地平線に見える丘の青は後退して見えるため、絵の中の空間に深さが感じられます。
中景は緑色が多く、暗い赤と茶色は前面に押し出されるように見えるため、前景が鑑賞者側に迫っているように感じます。