こんにちは!
今回は、フェルメールの《合奏》についてです。
早速見ていきましょう!
合奏
ヨハネス・フェルメール《合奏》1665年頃
簡素な室内で、3人の男女が音楽に興じている場面が描かれています。
部屋の中にいる人物は音楽に夢中になっており、お互い目を合わせず、また誰かに見られていることに気付いていないようです。
集中しているため、周囲を意に介していないのでしょう。
3人の男女はその服装や、室内の装飾から、上流階級だとわかります。
チェンバロを弾く女性
左側にいるチェンバロ(もしくはクラヴィコード、ヴァージナル)を演奏する女性は、髪に真珠とリボンを付けています。
チェンバロの蓋には理想郷アルカディアの風景画が装飾として描かれています。
壁の左側に掛けられた絵も風景画なため、この2つの風景画が調和し美しく感じます。
とはいえ、チェンバロに描かれた穏やかな風景画に対して、壁の絵は野生の風景画という違いがあります。
リュートを弾く男性
こちらに背を向けて椅子に腰掛けている男性は、リュートを弾いています。
彼は市民民兵であることを示す精巧な幅広の帯を身に付けています。
歌っている女性
右側の女性は楽譜を手にし、曲のリズムを取るために手を上げ、2人の音に合わせて歌を口ずさんでいます。
置かれた楽器
左手の大きなテーブルにはリュートが置いてあります。
床にはヴィオラ・ダ・ガンバが置いてあります。
3人のうちの誰かが楽器を取り上げて演奏するのでしょうか。
それとも、他の人が加わるのでしょうか。
フェルメールはむしろ意図的にこうした謎を絵の中に残しており、見る者に解釈を委ねています。
「取り持ち女」の絵と3人の関係性
壁の右手に掛けられている絵画は、娼家を題材としたディルク・ファン・バビューレンの《取り持ち女》です。
ディルク・ファン・バビューレン《取り持ち女》1622年
この絵は、フェルメールの義母が所有していました。
そのため本作は、誘惑と不義の恋愛に対する道徳的な警告であると解釈する研究者もいます。
3人のポーズが、なんとなく《取り持ち女》の絵と似ているのも気になるところ…。
ほぼ同じ構図の《音楽の稽古》と比較しても、3人の距離感が近いことから、「親密」な関係にありそうです。
世界一高価な盗難絵画(未解決)
1990年3月8日の深夜、アメリカ、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で、警官に扮して侵入した2人組の強盗により13点の作品が盗み出される事件が発生しました。
そのなかに《合奏》も含まれていました。
事件当日は聖パトリックデー(カトリック教徒の祝祭日)でした。
お祝いムードのなか職員たちはお酒で酔っていたようで、警備が甘くなっていました…。
事件後、盗難品発見につながる有力な情報に高額の懸賞金がかけられました。
そして、警察やFBIが懸命な捜査を試みるも、盗難品は見つからず、 四半世紀たった現在も未解決のままです。
それ以前にもフェルメール作品は何点か盗難にあっていますが、いずれも発見に至っています。
しかし、この《合奏》だけは現在も行方がわからないままです。
「ボストンの2億ドルの美術品強盗。世界に残された32点のうちの1点、フェルメールの盗難は最大の損失」(ボストン・グローブ紙、90年3月19日)
事件翌日の紙面に躍った見出しに記された推定被害総額が事件の規模の大きさを物語っています。
この出来事は今もなお史上最大の美術品窃盗事件だと言われています。
消えたフェルメールを探して/絵画探偵ハロルド・スミス [DVD]
2005年にはこの事件の模様を描いたドキュメンタリー映画『消えたフェルメールを探して』が公開され、 話題を呼びました。
他にもNetflixで配信中のドキュメンタリーシリーズ『ガードナー美術館盗難事件 消えた5億ドルの至宝』やアニメ『ザ・シンプソンズ』のエピソードなどにもこの事件は取り上げられています。
《合奏》のもつ価値は1億ドルとも2億ドルともいわれていますが、フェルメールの作品はその希少さゆえ売買されるケースがほぼ無いため、市場価値を設定すること自体が非常に難しいそうです。
まさに希有の存在で、「もはや金銭的な価値では測れない」とする専門家もいるほどです。
「どの作品も動かしたり置き換えたりしてはならない」という、美術館創設者イザベラ・スチュワート・ガードナーの遺言により、盗まれた絵が飾られていた場所には、現在は空の額縁だけが置かれています。