こんにちは!
今回は、アルテミジア・ジェンティレスキが17歳の時に描いた《スザンナと長老たち》を解説します。
早速見ていきましょう!
スザンナと長老たち
17歳で生まれた記念すべき第一作

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1610年
アルテミジア・ジェンティレスキが17歳のときに描いた《スザンナと長老たち》は、彼女にとって初めて署名を入れた重要な作品です。
彼女はこの後、繰り返しこの題材を描いています。
当時の女性は美術を本格的に学ぶ機会がほとんどなく、アルテミジアも父オラツィオの工房で絵を学んでいました。
そんな環境で若くしてこれほど完成度の高い絵を仕上げたこと自体、すでに驚くべき才能の証といえるでしょう。
聖書の物語を描いた場面
この絵の題材は旧約聖書に登場するスザンナの物語です。
人妻スザンナが浴場で体を清めているとき、二人の長老が近づき「言い寄りを拒めば罪に陥れる」と脅す場面が描かれています。
男性画家が描くスザンナ

ティントレット《スザンナと長老たち》1555-1556年
アルテミジアが《スザンナと長老たち》を描いた頃、この題材はすでに多くの画家が取り上げていました。

アレッサンドロ・アッローリ《スザンナと長老たち》1561年
その多くはスザンナを観る者の目を楽しませる「官能的な裸婦」として表すことに重点を置いていました。

ジュゼッペ・バルトロメオ・キアーリ《スザンナと長老たち》1700-1727年

マッテオ・ラブス《スザンナと長老たち》
たとえば、上の作品では、スザンナは浴場に座って背を向けています。
二人の老人がじっと彼女を見つめていますが、彼女は気づいていないのか、それともその視線を受け入れているのか…はっきりしません。
見る側の視点は老人たちに寄り添っていて、スザンナは「眺められる存在」として描かれています。
こうした表現は、当時の絵画に多く見られる「覗き見の視線を美化した」典型例だといえるでしょう。

アンニーバレ・カラッチ《スザンナと長老たち》1590-1595年
アンニーバレ・カラッチもこの主題を描いています。
アルテミジアより少し前の世代の巨匠で、彼女もきっとその絵を見たに違いありません。
カラッチのスザンナは、老人たちの言葉に耳を傾けるように体を傾け、自然でありながらもエロティックな雰囲気を漂わせています。
彼の絵ではスザンナが「誘惑される女性」として表現されていて、自分の意思や抵抗の感情はあまり前に出てきません。
女性画家だからこそ描けたスザンナ

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1610年
しかしアルテミジアの描いたスザンナは違います。彼女は身体をよじらせ、怯えと嫌悪をあらわにしながら必死に老人たちを拒んでいます。
体の肉付きや皺も理想化されることなく、生々しく描かれているため、裸婦ではなく「恐怖と苦悩に直面するひとりの女性」として私たちの前に立ち現れます。
この視点は、女性であるアルテミジアだからこそ捉えられたものだと評価され、当時として画期的でした。
後の代表作へとつながるはじまりとなった作品

アルテミジア・ジェンティレスキ《ホロフェルネスの首を斬るユディト》1610年
若き日のアルテミジアは、この絵ですでに「権力に抵抗する女性」というテーマを打ち出していました。
のちに「ユディトとホロフェルネス」などでさらに力強く展開されるその主題は、ここから始まっていたのです。
他のバージョン一覧

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1622年
第2バージョン以降は、表現が少し柔らかくなっています。

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1630年頃

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1638-1640年頃
…と思ったら、少し嫌がっている感じに戻りました。

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1649年
拒否。

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1650年頃

アルテミジア・ジェンティレスキ《スザンナと長老たち》1652年
最後はたしなめている風に。