不穏な絵ゲインズバラ「アンドリューズ夫妻の肖像画」について解説!

こんにちは!

今回は、ゲインズバラが描いた謎多き《アンドリューズ夫妻》の絵についてです。

早速見ていきましょう!

アンドリューズ夫妻(アンドルーズ夫妻)

トマス・ゲインズバラ《アンドリューズ夫妻》1750年頃

アンドリューズ夫妻

イングランド東部イースト・アングリア地方サフォーク州サドベリー近郊の領主、ロバートとフランシスは、1748年11月に結婚しました。

2人はそれぞれ広大な領地をもっていましたが、結婚によってさらに領地を増やし、2人が描かれている絵の背景の土地はほぼ全てが夫妻のものでした。

ゲインズバラは実際の2人を姿を見ながら描いたのではなく、モデルや人形に衣装を着せて描き、風景画仕上がったあと2人を描き込んでいきました。

結婚を記念して制作された作品でしたが、ラフな装いからもわかるように、フォーマルなものではありませんでした。

 

夫ロバート・アンドリューズは、自分の所有物(先祖伝来の土地、飼っている犬、妻)を統括して、人生に満足しているように、こちらをまっすぐ見つめています。

狩猟服のボタンを外して着くずし、ポケットからは弾薬の袋をぶら下げ、脇に猟銃(男らしさの象徴)を抱えています。

 

足を交差させた彼は、何気なく体をベンチにもたせ掛け、筋肉の付き具合を見せつけています。

オックスフォード大学を卒業した彼は、肖像画が描かれた当時、およそ22歳でした。

 

まだ16〜18歳の初々しい妻フランシス・メアリ・アンドリューズは、空色の日常着をまとい、室内履きのようなミュールを履き、日よけ帽をかぶっています。

ゲインズバラは、彼女の頭を小さく描き、きしゃな体格を強調しました。

当時、小柄な姿はもてはやされたこともあって、足も未完成の手も体全体に対しては不釣り合いで、実物より小さく、ほとんど人形のように描かれています。

アンドリューズ夫人のほっそりとした姿と座った姿勢も、構図における夫の優位性を強調しています。

カンバセーション・ピース

「肖像画」というと、通常1人だけの絵ですが、イギリスでは、家族や自分の持ち物と一緒に描いてもらうという「カンバセーション・ピース」が流行っていました。

カンバセーション・ピースは、1枚の絵に複数人の肖像画を描くので、1人1枚描いてもらうよりも安く済みます。

風景が描きたかった

この絵、夫妻の肖像画にしては、にいすぎですよね。

肖像画を描くだけなら、こんなに風景を描く必要はありません。

これでは風景と人物、どちらが主役かわかりません。

では、なんでこの絵、風景をメインで描いていると思います…?

それは…

風景が描きたかったからです。

ゲインズバラは、肖像画よりも風景画が好きで、当初は風景画を描いていました。

しかし、風景画の需要はなく、高値で売れるのは肖像画。

お金のためにしぶしぶ肖像画を描くことにします。

そこで思いついたのが、肖像画でありながら風景画でもある絵を描くことでした。

プラス、肖像画には、モデルの持ち物(宝石や美術品、家具など)を一緒に描いて、富や名声、教養や知識を示します。

アンドリューズ夫妻の持ち物は、この景色、土地でした。

現代的な農場

 

とうもろこしの豊作は、領地の、そしておそらく2人の豊かさの象徴です。

整った畝の様子は、アンドリューズ氏の耕作地が手入れの行き届いた現代的な農場たということを示しています。

18世紀の農業革命は、機械式種まきドリルなどの発明により、新しい農業手法をもたらしました。

そのような発明以前は、畝の形は一定にはなっていませんでした。

牧草地の囲いや、選択式の繁殖法、羊毛とミルクの増産のために導入されたもので、遠景に見えるフェンスで囲まれた羊の放牧地にその様子がうかがえます。

思い出の場所

 

手前には収穫が済んだばかりの麦畑、木立の間に小さく見えるのは、夫妻が結婚式を挙げたサドベリーのオール・セインツ教区教会です。

夫ロバートの左には、ロング・メルフォードの聖トリニティ教会もあります。

夫妻に縁の深い地元の風景が描かれています。

不穏な天気

 

…天気不穏すぎません?

依頼された肖像画に、明るく晴れたそれではなく、曇り空が描かれるのは珍しいことでした。

なぜなら、曇り空はどちらかというと、これから先にぼんやりと現れる災いを告げる物語性のある絵画に描かれることが多かったためです。

でも、ゲインズバラ的には変化する天候(雲間の青空、輝く白い雲、薄暗い雲、左手のグレー1色の暗雲)を描くことで、画家としての技量をアピールしたかったのでしょう。

雲間から地面に落ちる光と影が移動していく様子を生き生きと描いた自然描写は、当時としては斬新な表現でした。

グレーの階調で描いた雨雲は、17世紀オランダの風景画によく見られ、ゲインズバラもそこから学んだと考えられています。

 

ポインター種の猟犬が、主人を従順に見上げ、次の命令を待っています。

犬の頭部のラインが鑑賞者の視線をアンドリューズ氏の顔に誘導し、絵の主役を強調しています。

忠誠のシンボルとして、この犬は2人の貞節を表しており、ゲインズバラが描いた他の肖像画にも搬出するモチーフです。

微妙な表情…

アンドリューズ夫人の顔をよく見ると…

 

独特。

怒り悪意なのか、ウンザリしているのか、奇妙な顔です。

フェイス・ウィスパラー(ボディーランゲージと表情を読み取るプロ)が、彼女の表情を見ると、彼女の顔の下半分に、軽蔑の感情が現れているそう。

本当かどうかわかりませんが、夫婦仲悪かったらしいです。

未完成の作品

 

アンドリューズ夫人の膝の上部分が未完成です。

夫が狩りで獲ってきたキジ説や、後に子供が生まれた時に赤ちゃんを描くために空けておいた説などありますが、結局完成することはありませんでした。

なぜ未完のままなのか、何を描くつもりだったのか、なんで夫人は微妙な表情をしているのかなど、謎が多い作品です。

なのでこの絵はとても人気があります。

樫の木

 

型通りの肖像画には、古典的な円柱が構図のための仕掛けとしてよく用いられていました。

その代わりとして、ゲインズバラは、大きな樫の幹を描いています。

伝統的には船の建造に使われる木材で、「偉大な」樫は、素晴らしい力強さと安定性の象徴であり、イギリスの田園風景を思い起こさせる代表的イメージでもあります。

線や形の呼応

夫の太ももと銃の直線、ベンチの背もたれと夫人のスカートの曲線、ベンチの足と夫人のミュールの線などが呼応しています。しゃれてる…。

ディズニーシーにパロディがある

ちなみにこの絵、ディズニーシーのお土産物屋さん内に、美女と野獣バージョンのパロディが飾られています。

かわいいので是非探してみてください!