こんにちは!
今回は、マネ最後の大作《フォリー・ベルジェールのバー》を解説します。
早速見ていきましょう!
フォリー・ベルジェールのバー
エドゥアール・マネ《フォリー・ベルジェールのバー》1881-1882年
マネの最後の大作です。
左端にある酒瓶のラベルに「Manet 1882」、サインと制作年が書き込まれています。
マネはこの翌年に51歳で亡くなります。
舞台
フランス、パリのミュージックホール『フォリー・ベルジェール』が舞台です。
マネが元気だった頃に足しげく通っていた場所でもありました。
当時ここでは、バレエ、オペレッタ、シャンソン、パントマイム、サーカス風の曲芸など様々な演目が行われていました。
日本にあるような劇場とは違い、上映中も食事ができたり、併設のバーでお酒を飲めたり、劇場内を動き回るのも、おしゃべりもOKという非常にガヤガヤとした空間でした。
あらゆる階級の人々が出入りし、楽しんでいました。
絵の左上にも空中ブランコに乗った人物の足が見えます。
ちなみにフォリー・ベルジェールは現在も営業しています。
アトリエにバーを再現
制作中も手足のマヒや痛みに苦しみ、現地でデッサンした後は、家を出ることができませんでした。
そこで、友人たちはマネのアトリエにカウンターを作り、モデルを呼びました。
ちなみにバーカウンターに置いてあるこのビールは、イギリス産ビールのBASSです。
なまけ者雑貨屋 The Drink Of The Empire Bass Pale Ale アメリカン 雑貨 アンティーク インテリア プレート ブリキ メタル 看板
安価だったので、人々がよく飲んだそう。
現在も販売しています。ビール好きの人は飲んだことがあるかもしれません。
モデル
虚無感がすごい。
うつろな表情の女性は、バーメイドです。
この時代の女性のバーメイド=娼婦でした。
フォリー・ベルジェールのバーメイドのシュゾンをモデルとして自宅のアトリエへ呼びました。
当時の流行色だった黒色のドレスとチョーカーを身に付けています。
さらに、この黒色、よく見ると真っ黒というわけではなくて、青色なども混ざっているので、優しく見えます。
大勢の人々がいて、にぎやかな空間だからこそ、彼女の孤独感がより強まっています。
最初にうつろな表情と書きましたが、マネってにこにこした笑顔〜!みたいな絵は描かなくて、むしろ無表情な絵が多いので、どう見えるかは見る人に委ねていたのかなとも思います。
なので彼女の顔を見たとき、人によって、孤独、退屈で不機嫌、上の空、長時間労働で疲れている…などなど感じ方が違います。面白いですね。
腕が長すぎる
ぱっと見気が付かないのですが、女性の腕が長すぎます。
身体の横に下ろしたらどんな長さ…
これは絵画あるある、身体の描き方が不自然でも、バランスがいいから気にならないというやつです。
女性の頭を頂点とした、きれいな二等辺三角形で、絵に安定感が生まれています。
ラス・メニーナスを意識
現実を描いているようで、現実ではない、鏡を使ったトリック的な絵は、ベラスケスの《ラス・メニーナス》を意識していたのではと考えられています。
世界3大絵画のひとつでもある《ラス・メニーナス》についての解説はこちら↓
イリュージョン?
バーカウンターの後ろは鏡になっているのですが、鏡像の写り方が奇妙です。
女性の鏡像があまりにも右にあったり、酒瓶の写り方がおかしかったり…。
現実的に描くのであれば、鏡像は真後ろにくるはずです。
このことから、マネは、現実をそのまま描くつもりがなかったことがわかります。
確かに真後ろに鏡像があったら、絵としてごちゃごちゃしますよね。
横にずれていた方が、女性が目立ちます。
さらに、スタンドバーは、ホールの床より高いはずなのに、この絵だと、ホールと同じ高さにあります。
客の男性に「あえて」見下ろされているように描くことで、立場的に下な彼女の孤独感を表しているのかもしれません。
リアルを描いた?
Photograph showing a reconstruction of the bar arrangement as seen from the offset viewpoint, 2000.
Photograph by Greg Callan
Courtesy of Malcolm Park出典:J. Paul Getty Museum『Manet’s Bar at the Folies-Bergère: One Scholar’s Perspective』
イリュージョン説が強いですが、現実的に無理ってわけではないようです。
ゲティ美術館のページで見つけた記事によると、オーストラリアの美術史家の研究で、絵と同じような鏡像を再現できたそうです。
Arrangement of the bar and its reflected image, viewed from above, showing the “offset” viewpoint.
Computer-generated diagram by Malcolm Park, with the assistance of Darren McKimm. Courtesy of Malcolm Park出典:J. Paul Getty Museum『Manet’s Bar at the Folies-Bergère: One Scholar’s Perspective』
この視点でマネが描いていたのだとすると、客の男性と、バーメイドは会話をしているわけではなくて、全くの無関係ってことになります…。
だとしたら、客の男性がなぜそんな変な位置にいるのかも謎だし、バーメイドが目の前に客がいるのに、無視して違う方向を向いているのも謎すぎるので、
個人的には最初のイリュージョン説かなぁ…と思っています。