こんにちは!
今回は、ホガースの『ビール街』と『ジン横丁』について解説します。
早速見ていきましょう!
ビール街とジン横丁
ウィリアム・ホガース《ビール街》1751年
ウィリアム・ホガース《ジン横丁》1751年
《ビール街》と《ジン横丁》は、下層階級の間で広がるジンによる社会問題を改善しようと作られた作品です。
当時、ジンは安価で簡単に酔えるお酒だったため、貧困層に非常に人気がありました。
しかし、ジンの品質が不安定で粗悪なものも多く、中毒性もあり、体を壊す人が大量に出て社会問題となっていました。
そこで、イギリス政府はジン規制法を施行しますが、効果はあまりありませんでした。
そんなときに作られたのがこの作品です。
この作品は、一般の人々の目に触れるよう、酒場やカフェなどに貼られていました。
ビールは健康!ハッピー!、ジンは悪!悪!悪!という内容の作品なのですが、そもそもビールが高くて買えないから消去法でジンを飲んでいる面もあるので、根本を解決しないとどうにもならないね!といったところ…。
ジン横丁
ウィリアム・ホガース《ジン横丁》1751年
外国産の安いジンが入ってきたことによって、堕落と荒廃を描き、その恐ろしさを伝えています。
ジン狂いのロンドン市民が描かれています。
落ちていく赤ちゃん…。
中央に座るボサボサ頭の女性は、授乳中…だったはずが、嗅ぎタバコをつまむことに気を取られ、自分の腕から子供が消えていることにも気づいていません。
酔っ払ってもうなにもわからなくなってしまっているのでしょう。
足には梅毒の症状が出ていることから、売春婦だとわかります。
軍服を来ていることから、旧軍人だと分かります。
餓死寸前、目も見えているのか見えていないのか…。
ジンのコップを片手に、カゴの中から「ジンはやめよう!」というパンフレットが見えています。
これはジン中毒の問題が当時認識されていたにもかかわらず、多くの人々がその誘惑から逃れられない状況を皮肉っているのでしょう。
「KILMAN DISRILLER」その名の通り、人を殺す蒸留酒製造業者、ジンの酒造所だと分かります。
その店の前でジンを飲む2人の少女たち。
その下、母親が赤ちゃんに無理やりジンを飲ませています。
水よりジンの方が手に入れやすいから飲ませているのか、泣き止まないからジンを飲ませているのか…。
矢と球体が3つついた看板は質屋です。これは金貸し業もしていたメディチ家のマークからきています。
渋い顔をした店員に、持ってきたものの品定めをしてもらっている2人。
生活必需品を質入れする人々の姿からは、ジンを購入するために必死になっていることが伝わってきます。
これは、ジンが人々の生活にどれほど深く浸透し、負の影響を及ぼしていたかを物語っています。
完全にクレイジーな男がいますね。
彼の右手には、大きな釘のような棒、そして赤ちゃんが突き刺さっています。
横から赤ちゃんの母親らしき人物が驚いた表情で慌てて追いかけています。
手前の母親の腕から落下している赤ちゃんも、ちょうどお腹のあたりに階段の手すりがきていて、突き刺さっているようにも見えます。同じようなシーンを反復して強調しています。
大人が理性を失い、その結果として最も無垢な存在である子供たちが犠牲になっている様子は、視覚的にも強烈なメッセージを私たちに伝えています。
サイズの合わない棺桶に埋葬されている女性の近くには彼女の子供が。
放置されているのでこの子も先は長く無いことがわかります…。ジンによる破壊が次世代にまで及ぶことを象徴しており、見る者に深い悲しみを感じさせます。
『ジン横丁』では、ジンによって、理性を失った大人の犠牲になる子供たちがクローズアップされています。
ホガースは子供時代の影響からか、不遇な子供に対して思うことが多かったのかもしれません。
彼は孤児養育院の院長をしたり、昔自分が通っていた途中に閉鎖してしまった学校を再建したりしています。
ビール街
ウィリアム・ホガース《ビール街》1751年
英国産ビールを楽しむ人々の生き生きとした様子を通じて、健康的で幸福な社会の姿を示しています。
ジン横丁と比べて、建物がしっかりとしており、人々が豊かで、明るく楽しげな雰囲気が全体に満ちています。
ジン横丁では繁盛していた質屋も、ビール街では看板が下向きになっていることから、繁盛していないようです。
この絵では、みんなが真面目に働き、労働で得たお金で国産のビールを楽しむ人々の姿が描かれ、健全な生活と社会の繁栄を象徴しています。
そんなビール街にも、ジンの影が…?
画家が描いている看板がジンっぽいですよね。
さらに看板の横にぶら下げてあるのもジンのボトルを連想させます。
健康的で明るいビール街にも、ジンの脅威が潜んでいるということを表しているのかもしれません。
この絵からは、今は大丈夫でも、怠惰な心はどこにでもある。だからこそ、常に自己規律を持ち、誘惑に負けない強さを持つべきだという教訓が読み取れます。
社会的な繁栄や個人の幸福は、日々の選択や行動によって維持されるものであり、自己管理と社会への貢献が重要であるとホガースは私たちに伝えたかったのかもしれません。