こんにちは!
今回は、フェルメールの《恋文》についてです。
早速見ていきましょう!
恋文
ヨハネス・フェルメール《恋文》1669年頃
召使から困惑気味に手紙を受け取った若い女性が描かれています。
部屋の中は大理石の床、壁の絵、金の革の壁掛けなど、豪華な装飾が施されています。
手紙
当時のオランダでは、絵画の題材として「恋文」が好まれていました。
この作品では手紙を受け取った場面が描かれていますが、手紙を書いている場面、あるいは読んでいる場面の絵画も多く描かれています。
フェルメールもまた、さまざまなバリエーションを通してこうしたシーンを描いています。
女性の手にある手紙は影に包まれ、彼女の黄色い上着を背に際立っています。
女性の顔には光が当たっているため、自然と彼女の顔の表情に注意が向くようになっています。
この手紙にはどんなことが書いてあるのか、誰もが気になることでしょう。
手紙の内容は…?
リュートを弾いていた女主人は演奏をやめ、召使から手紙を受け取りました。
手紙を持った女主人は、何かを期待した様子で召使を見上げています。
この手紙には、恋人からのどのような知らせが書かれているのでしょうか。
これから読む手紙の内容が、期待通りのものではないのではと心配しているかのようです。
しかし、女中の穏やかな態度や優しい笑顔からは、女性が手にした手紙には好ましい内容が書かれていることを確信している様子が読み取れます。
2枚の絵に隠されたメッセージ
2人の女性の上にある絵画は、好ましい知らせであることを教えているようにも見えます。
17 世紀には、恋愛はしばしば海に、そして恋をする人は船にたとえられました。
荒れた海は関係の激しさを、穏やかな海は愛の前触れを表します。
女性の背後にある絵には青い空と穏やかな海が描かれています。
また、帆船の絵は、手紙が遠方から届いたものであることもほのめかしています。
その上にある絵の牧歌的景観も同じようなメッセージを表しているようです。
リュートの意味
リュートは 17 世紀に人気のあった弦楽器で、歌の伴奏のための楽器としてよく使用されていました。
また、音楽や楽器は、主に恋愛に関係するものとして捉えられていました。
そのため、ここで楽器を演奏している女性は、恋文を受け取るという状況の中にあってふさわしい主題なのです。
リュートによって、夫婦間の貞節から色情や不貞に至るまで、さまざまな種類の恋愛が表現されていました。
ここではどのような表現としてリュートが描かれているのでしょうか。
多数の絵に登場する黄色いガウン
毛皮の付いた女性用の高価な黄色い上着など、フェルメールの他の絵画にも見られるモチーフが描かれています。
この上着は、《手紙を書く女》など5作品に登場しています。
1676年2月29日に記録されたフェルメール家の目録には、白い毛皮の縁取りが付いた黄色いサテン製の上着が記載されており、この絵のガウンだと考えられています。
彼女の髪型や服装、装飾品から、裕福だということがわかります。
床に散乱したモノたち
床には、洗濯物のかご、ほうきやスリッパなど、さまざまな物が散乱しています。
おそらくこの若い女性は、恋愛に悩まされて家事のことをすっかり忘れてしまったのでしょう。
あるいは、フェルメールはこうしたアイテムが象徴的に解釈されるようにわざと配置したのかもしれません。
靴は家庭内の調和を表す場合もありますが、みだらな解釈をされることもあります。
結婚していない二人が同棲している象徴として、ほうきを見ることもできます。
しかし、不誠実な恋愛を題材にしているという明確なモチーフは描かれていないため、どのように解釈すべきかは不明です。
大理石の床
この光景を眺める傍観者がいると思われる部屋から、床の白い大理石のタイルが列状に並んで、我々の視線を 2 人の女性のほうへと導きます。
大理石のタイルは 17 世紀の屋内絵画に多く描かれていますが、実際にはこのような床が使われるのはまれでした。
こうしたタイルは、主に非常に裕福な家庭の小さな部屋で使われていました。
フェルメールは、大理石の模様の詳細を描く代わりに、素早く緩やかな筆跡で大理石の質感を表現しています。
のぞき見の構図
フェルメールの作品には、普段は目にすることのないものを不意に目撃してしまったような、プライベートな場面を描いたものが少なくありません。
ここでは、少し離れた暗い通路から、彼女たちがいる明るい部屋を眺めているような配置にすることでその雰囲気を強めています。
このような構図は、17 世紀の絵画では珍しいものありませんでした。
フェルメールは、複数の部屋をそれぞれ前後に配置することで絵画の奥行き感を強めています。
少し話がそれますが、彼女たちがいる長方形の空間を部屋ではなくて鏡なのでは?と考える専門家もいます。そう言われるとそうも見えてきます。
ピーテル・デ・ホーホ《オウムと男女》1668年
部屋の中を垣間見るような構図は、フェルメールが住み、絵を描いた街デルフトで1660年の終わり頃まで活躍していた画家、ピーテル・デ・ホーホの得意分野の1つでした。
この2人の画家がお互いの作品を手にしていた可能性は高く、フェルメールがデ・ホーホの作品から着想を得ていたとしても不思議ではありません。
前に物をごちゃごちゃ置く意味
この作品では、光が差し込む明るい部屋とその前にある影の空間が対照的に描かれています。
フェルメールの作品の特徴の一つである、ルプソワールという前景にいろんな物を描く技法がこの絵でも使われています。
左側の壁には地図が掛けられています。
その右側には楽譜が置かれた椅子があります。
部屋への出入口の前に吊り下げられているはずのカーテンは、片側に引き上げられています。
物を手前に配置することで、奥行きを持った空間を生み出すことができます。
手前にルプソワールをはっきりと描くことで、他の物が遠景に配置されているように見えます。
サイン
フェルメールは、「IVMeer」というサインを洗濯物かごの上の壁、召使の青いスカートの左側に書きました。
I、V、M が 1 つの文字として書かれており、この中で「I」は彼のファーストネーム「ヨハネス」を表します。
盗難事件
『恋文』は、1893 年からアムステルダム国立美術館に収蔵されています。
この作品は、1971年にブリュッセルのパレ・で・ボザールで行われた展覧会で盗難に遭いました。
2週間後に発見されましたが、犯人が盗む際に木枠から絵をナイフで切り取って丸めて持ち歩いたため、絵の具が剥がれてしまい、作品は深刻なダメージを負いました。
窃盗犯は、東パキスタン難民義援金を要求しマスコミとも接触、その後ブリュッセル郊外で通報により逮捕され、懲役2年の判決を受けましたが半年で出獄し、29歳で病死しました。
その後ダメージはすぐに修復され、元通りに復元されました。