こんにちは!
ホガースの物語画シリーズ『放蕩一代記』です!
親の遺産で急にお金持ちになった息子が調子に乗る話です。
『放蕩一代記』1732-1735年
ウィリアム・ホガースによる作品です。8枚の連作です。
お金持ちだけど、とてもケチで全然お金を使わない父親が亡くなり、遺産が入ってきて一気に大金持ちなった息子トムが主人公です。
1. 後継者
オックスフォード大学で勉学中だったトムは、急に大金を手に入れ、早速衣装を新調しようと、仕立て屋を自分の屋敷に呼んで、寸法を測ってもらっているところです。
左側で泣いているのは庶民階級の婚約者のサラです。
トムは金貨を渡して婚約破棄しようとしています。
金貨??セコすぎない??父親譲りかよ?!?
このトム、めちゃくちゃむかつく顔してるな…
サラの母親は、サラの腹部を指差し、妊娠しているのに見捨てようとしているなんて!と怒っています。
2. 襲名披露
トムの周りには、音楽家や元軍人、騎手など、高価な衣装を身に付けた人々が集まっています。
中でも、フェンシング教師と、ヴァイオリンを持っているダンス教師はフランス風の外観で描かれており、ホガースが嫌っていた表現方法でもあります。
イギリス人なのに、フランス風の格好をする人や、フランス風の絵が嫌いだったんでしょうね。(笑)
壁真ん中の絵『パリスの審判』は、3人の美しい神の中で、誰が一番美しいか、イケメンのパリスに決めてもらおう!というお話です。
絵画によく描かれる主題でもあります。
ピーテル・パウル・ルーベンス《パリスの審判》1636年
ホガースはこういう絵を毛嫌いしていて、『パリスの審判』を絵に描き入れたのも、こんな絵を飾る上流階級は悪趣味だって言いたかったんだろうなぁ…
3. 乱痴気騒ぎ
売春宿で泥酔しているトム。
そんなトムから懐中時計を盗んでいる娼婦たち…
娼婦の顔には、梅毒の症状を隠すために、わざと黒い斑点をいくつも顔に化粧しています。闇。
4. 逮捕
イギリスの王妃キャロライン妃の誕生日パーティーに行こうと人力車に乗っていたトム。
負債を抱えすぎて捕まりそうになるところを、なんとサラが自分がコツコツ働いて稼いだお金を差し出し、助けに入ります。神。
灯火に油を補給している男性が、トムの頭に油をこぼしています。
悪質な嫌がらせかと思いきや、頭に油を注がれるというのは、祝福を意味します。
この場合は、サラが窮地のトムを助け、改心のチャンスを与えたって感じでしょうか。
5. 結婚
場所は、いろいろあってお忍びで結婚式を挙げたい人向けの結婚式場です。
お金が無くなっても裕福な生活に慣れきってしまったトムは、お金持ちの老婆と結婚することにしました。
老婆よりもそのメイドに興味がありそうなトム。
後ろの方では、トムの子供を抱いたサラと、結婚に腹を立てて殴り込みにきている母親がいます。
6. 賭博場
おててを上げているのが賭けに負けて全財産を失い、カツラも取れちゃってるトムです。ウケる。
背後で火事が発生していますが、賭け事に夢中でほとんどの人が気付いていません。
7. 監獄
とうとう債務者監獄に収監されたトム。
トムの横では、自分のお金を全て使い尽くした老妻が怒り狂い、サラはこの状況に耐えきれず気を失い倒れています。
サラの子供が母親のスカートを握り締めています。
机の上には、お金を工面しようと、トム執筆の戯曲の台本が置いてありますが、劇場で使われることもなく、収入の見込みはゼロ。
目を見開いて、誰とも焦点が合っていない感じ、トムがおかしくなり始めています。
8. 精神病院
精神的におかしくなってしまったトムは、ロンドンの悪名高い精神病院べドラムに入ります。
トムがここから出てくることは一生ないなって思わせるラストです。
ハンカチで涙を拭いながら献身的に介護しているのはサラです。
こんなダメ男なのにまだ愛し続けるのすごい…執着…。
病院の医師が、彼女を引き離そうとしています。
トムはもうサラのことも忘れていそうレベルで様子がおかしいし。服どうしたトム。
トムの足に鉄鎖をつける下働きの男がそばにいます。
周りにはいろんな精神病患者が描かれています。
個室で十字架を前に恍惚と祈る狂信家、天文学者のつもりで丸めた紙を目にあてている人、裸の王様、滑稽な顔を作る仕立て屋、楽譜を頭に載せてヴァイオリンを弾く音楽家、三角帽をかぶった法王、高級売春婦のポートレートを首に巻きつけて物思いにふけり、犬に吠えられても気づかない失恋男などなど…。
そんな人々を見物しに、流行の毛皮のマフと高価な扇子を持った着飾った貴婦人2人がこの場を訪れており、ニヤニヤと楽しそうです。
場違いな感じのするこの2人、一体誰なのかというと…
ヨーロッパ最古の精神病院であるこのベドラムは、当時大人気の観光名所でした。
お金を払う(表向きは「寄付」という形で1ペニー払う)と見物したり、患者を棒でつついたりすることができました(長い棒の持ち込みOK)。悪趣味…。
当時、狂気に陥った人間は病人どころか、すでに人間の範疇を離れ「珍獣」扱いでした。
トムは自業自得として、サラに救いがなさすぎて悲しい気持ちになる終わり方でした。
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