こんにちは!
今回は、クラーナハの《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》を解説します。
早速見ていきましょう!
目次
ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド
ルーカス・クラーナハ《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1526-1527年
女性の裸の絵は禁忌だった時代
当時のヨーロッパでは、女性の裸を描くことはタブーでした。
それなのになぜ、クラーナハのこの絵は許されていたのかというと、実在の人間ではなく、神話の女神を描いているからです。
そう、神話ならOKという謎の抜け道ルールがあったんです。面白いですよね。
どうして神話の絵だとわかるのか
実在の女性の裸を描いてはいけない時代に描かれた「裸の女性」の絵ということから、彼女が神話の世界に登場する女神、または擬人像だということがわかります。
西洋絵画では、人物を特定する持ち物が絵の中に一緒に描かれることがとても多く、何と一緒に描かれているかによって、特定することができます。
この絵では、横にキューピッドがいることから彼女は愛と美の女神ヴィーナスだとわかります。
教訓的な絵
クラーナハは、絵だけだと意図を理解できない人々から文句を言われないようにと思ったのか、わざわざ絵の中にラテン語で、
「キューピッドは蜂の巣から蜜を盗もうとしたが、蜂は針でその指を刺した。束の間の快楽をむさぼろうとしても、快楽は人に苦痛を与え、害をもたらす」
という文章を書き込んでいいます。
これは、古代ギリシャの田園詩人テオクリトスの詩『第19歌 蜂蜜泥棒のキューピッド』の一説です。
蜂蜜=「つかの間の愛の喜び」は、蜂の針=「悲しみと痛みで私達を傷つける」という教訓的な意味合いが込められています。
キューピッドのきまぐれによって矢を射抜かれた人々の、恋の痛みの強さをキューピッドにわからせている、というスパルタなヴィーナスが描かれています。(笑)
愛は甘美だけど危険なもの、という教訓です。
ヴィーナスの病
キューピッドが蜂の巣を採った木のくぼみは、女性器を暗示し、快楽にふけると、ヴィーナスの病にかかる危険があると警告しています。
ドイツ語では現在でも梅毒のことを「ヴィーナスの病」といいます。
蜂蜜=「性愛の快楽」、蜂の針=「病の苦しみ」を表していると解釈することもできます。
はちみつ
古代ローマの時代からゲルマニア(現在のドイツ)では養蜂が盛んで、中世以降は蜂蜜を盗んだ者に厳しい刑罰が課されていました。
また、新婚の1か月間は子作りのために蜂蜜酒を飲む風習もあり、そんな背景から蜂蜜が道徳的戒めを伝えるモチーフに選ばれたのかもしれません。
流行のファッション
この絵に限らず、クラーナハは絵の中の人物に当時の宮廷の流行のファッションを着せて描いています。
豪華に着飾っている宮廷の女性の服装の一部だけを裸婦に着せています。
全裸を描くよりも、少しだけ何かを身につけていた方が官能性が強調されますよね…それです。
最新の流行のファッションをまとう宮廷の美女を想起させ、その裸体をのぞくような背徳感を楽しめる絵になっています。
意味ありげなリンゴ
リンゴは原罪を示すモチーフで、そのリンゴの木に手を伸ばすヴィーナスは、イヴを想起させます。
鹿
狩猟が王侯貴族のたしなみであり、気晴らしであったことから、森には鹿の姿が見えます。
また中世では、牡鹿は悪魔の化身である蛇を退治すると考えられていたため、蛇がすすめた原罪のリンゴに対する戒めとしても描かれています。
クラーナハの特徴的なサイン
クラーナハのサイン(クラーナハは大きな工房を経営していたので、サインというよりブランドのマークに近い)は特徴的で面白いのと、絵の中にそれとなく紛れ込ませているので、探す楽しみもあります。
サインとはいっても文字ではなく、冠をつけたコウモリの翼のはえたヘビが輪(指輪)をくわえている絵です。
これは、クラーナハが36歳のとき、ザクセン選帝侯から与えられた盾形紋章の絵柄です。
その他のバージョン
この絵はとても人気で、クラーナハとその工房によって約20点同じような絵を制作していました。
ルーカス・クラーナハ《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1529年
クラーナハは、ロリータ風裸婦像が大得意な画家でした。
ヘアバンドに「全ては虚栄心」との文字が。
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1530年
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1531年
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1531年
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1537年
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1537年以降
《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1545年