ゴヤ「ウェリントン公爵」と盗難事件を超解説!映画007にもネタにされた?

こんにちは!

今回は、ゴヤの《ウェリントン公爵》と盗難事件について解説します。

早速見ていきましょう!

※映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』のネタバレでもあるので、観る予定のある方はご注意ください。

ウェリントン公爵

フランシスコ・デ・ゴヤ 《ウェリントン公爵》 1812-14年

ウェリントン公爵ってどんな人?

ウェリントン公爵は、ナポレオンを2度破ったイギリスの英雄です。

そんな有能な彼は、どんどん出世していき、服には多数の勲章が輝いています。

彼は、フランスのナポレオン軍に占拠されていたスペインを解放したことから、スペインにとっても英雄でした。

そしてそのスペインの宮廷画家ゴヤが描いたのが本作です。

どうしてゴヤはこの英雄の顔を疲れ切った表情で描いたのかは諸説ありますが、ゴヤは、誰に対しても忖度しない方針だったのかもしれません。笑

本人はあまり気にいっていなかった

ウェリントン公爵は本作をあまり気にいっていなかったようで、リーズ公爵にあげてしまいました。

そして代々この家がこの絵を所有していたのですが…。

「ウェリントン公爵」盗難事件

 

この絵の盗難事件は、『ゴヤの名画と優しい泥棒』という映画にもなっています。

国外流出の危機

1961年に、リーズ公爵家が本作をサザビーズのオークションに出品し、アメリカのコレクターが購入しました。

しかし、イギリスの英雄の肖像画を国から出してしまっていいのか?ということになり、ウォルフソン基金と国がお金を出し合って、この絵を14万ポンド(約1億4千万円)で買い戻しました。

そしてロンドン・ナショナル・ギャラリーで展示されることになりました。

当時のイギリスでは、当然この絵が話題になり、大勢の人がこの絵を見に行きました。

1961年8月2日から一般公開されましたが、なんとその19日後に絵が盗まれてしまいました。

犯人は…国際的な犯罪組織?

ロンドン警視庁は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの警備をくぐり抜けて盗むなんて、国際的な犯罪組織でなければ不可能だ!と考えていました。

しかし、なんと、絵を盗んだのは、60歳の年金暮らしのタクシー運転手ケンプトン・バントンでした。

彼は絵を盗んだ4年後に、この絵を返却しました。

ではなぜ、彼は絵を盗んだのでしょうか?

年金受給者の受信料を無料に!

当時は、テレビが唯一ともいえる娯楽でした。

彼のような高齢者にとって、テレビは社会との繋がりを感じさせてくれる大事なものでした。

ケンプトンは、自分と同じ高齢者の生活を少しでも楽にしたいと、盗んだ絵画の身代金を寄付し、公共放送(BBC)の受信料を無料にしようと企てました。

BBCは(NHK以上に)取り立てが厳しく、ケンプトンは「BBCを見てもいない(TVもBBCが繋がらないように改造した)のに、なぜ支払わないといけないのか」と抗議し続け、何度か投獄もされています。

まさかの判決

結局イギリス政府は彼の要求には応じませんでした。

そして彼は絵を返した後、自首しました。

そして裁判になり、彼は絵画を永遠に盗もうとしていたわけではない、ちょっと借りただけ、ということで無罪、紛失してしまった額縁のみ窃盗として有罪となり、懲役3ヶ月という軽い刑で済みました。

真相は…

しかし、実際の犯人は彼ではありませんでした。

なんと彼の息子ジョンが、1969年に自分がこの絵を盗んだと自白しています。

しかし、当時、証拠不十分ということで、それ以上の調査などはされずに内密に処理されたようです。

映画『007』にも登場した絵


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そして絵画盗難中に公開された、映画『007  ドクター・ノオ』で、ジェームズ・ボンドの敵のドクター・ノオが盗んだという設定でこの絵が登場しています。

こういう遊び心面白いですよね〜。イギリスっぽい…。