フェルメール「絵画芸術」を超解説!どんな意味が隠されてる?

こんにちは!

今回は、フェルメールの《絵画芸術》を解説します。

早速見ていきましょう!

絵画芸術

ヨハネス・フェルメール《絵画芸術》1666-1668年

この作品は、一見しただけでは、17世紀の画家のアトリエをそっくりそのまま描いたもののように見えますが、実は違います。

絵画という芸術そのものへの礼賛を表しています。

フェルメール作品で3番目に大きい絵

絵のサイズは縦1.2×横1m、フェルメール作品のなかで3番目に大きい作品です。

画家

 

絵の中に画家が描かれていると、どうしてもその絵を描いた画家の自画像だと思いたくなってしまいますが、この人物が誰なのかわかっていません。

というよりも特定の人物を描いたのかすらわかっていません。

ヨハネス・フェルメール《取り持ち女》1656年

上の作品の左端の人物(フェルメールの自画像説があるが、よくわかっていない)と衣装が似ているため、(上の絵がフェルメールならこの絵も)画家本人なのでは?という説はあります。

フェルメールかどうかはわかりませんが、この人物はおそらくフェルメール自身が絵を描くときのスタイル(立つよりも座った姿勢でイーゼルに向かい、腕鎮を使用する)と同じ格好をしていると考えることができます。

 

また、フェルメールによるものとして知られているドローイングが存在しないため、描かれた画家のように、下書きを紙に描くのではなく、用意したキャンバスに直接描いていたのかもしれません。

画家の着ている背中に切り込みの入った服は作業着ではなく、15〜16世紀にブルゴーニュ公国(現在のフランス東部とベルギーのあたり)で流行した服装で、当時の人が見ても現実離れした時代遅れの格好でした。

なのですが、どうもこの服装が17世紀のオランダでも再度ブームになっていたようで、歴史を描きながらも流行の最先端を描いていたのかもしれません。

歴史の女神クレイオ

 

彼女は、一緒に描かれているアイテムから歴史のミューズ、クレイオだとわかります(もちろんクレイオ本人を描いたのではなくて、モデルがクレイオに扮しているという設定)。

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月桂樹の冠は栄光を象徴し、トランペットは名声を意味し、手に抱える書物は知恵や知識、歴史的記録を示しています。

これらの特色は、チェザーレ・リーパの『イコノロジア』に記されているクレイオの説明と一致します。

『イコノロジア』は寓意画像についての説明書で、17世紀の芸術家たちによく使われていました。

オランダ語版は1644年に刊行され、フェルメールもおそらくこの翻訳版を持っていたと考えられています。

月桂樹

 

月桂樹は「栄光」や「勝利」を表しています(オリンピックの優勝者も月桂冠をかぶっていますよね)。

絵の中の画家が、あえて月桂冠から描いているのも「芸術の勝利」を強調するためです。

 

またよく見ると、画家の描いている絵とモデルのかぶっている月桂冠の形が違います。

これも、画家という仕事は、「模倣」だけではなくて、クリエイティブな仕事なんだというフェルメールの思いが反映しているのかもしれません。

トランペット

 

トランペットは、「音を遠くまで運ぶ」ことから「名声」「告知」を意味します。

天使がトランペットを持った姿で描かれるのも、天使が神のお告げを広く伝える存在だからです。

また、進軍の際にも吹くことから「勝利」を表すこともあります。

モデルは娘?妻?

この絵は、フェルメールの死後も、妻カタリーナが手元に残しておこうとした数枚のなかの1枚だったことから、モデルは娘、もしくは妻だったのでは?ともいわれていますが、こちらもよくわかっていません。

仮面

 

クレイオの格好をしている女性の前にあるテーブルの上に、石膏の仮面があります。

ただアトリエの小道具が置かれているというようにも解釈できますが、仮面は芸術においていろいろな意味と関連性があります。

仮面は、古代ギリシャの時代から、演劇役者がかぶっていました。

役者が他人になりすますという意味から「模倣」を象徴するアイテムとして描かれるようになりました。

「すべての芸術は模倣から始まる」という言葉もありますよね。

また、石膏像も型を作れば同じものを何度でも作れることから、仮面と同じく「模倣」を意味します。

リーパの『イコノロジア』では、仮面は「絵画の人格化の象徴」のひとつであると記されています。

地図&シャンデリアに隠された意味

 

壁に掛かっているのは、フェルメールの母国ネーデルラント(現在のオランダとベルギーの一部)の地図です。

この絵が描かれる30年ほど前の1636年に刷られたものでした。

 

地図の下部、女性の襟首の右に「VerMeer(フェルメール)」とサインしてあります。

実際にこの地図を作ったのは、クラース・ヤンス・フィッセルという人物です。

オランダは、1648年にネーデルランドの北部7州が独立してできた国で、この地図が刊行された時にはまだスペインの支配下にありました。

 

シャンデリアの上部には、支配者スペイン・ハプスブルク家の紋章である双頭の鷲の飾りがついています。

 

当時はまだ地図の上部を北にする慣例がなく、右が北になっています。

地図の中央の折り目がちょうど独立した北部(右)と残された南部(左、スペイン領ネーデルラント、現在のベルギーとほぼ同じ領域)とを分けています。

スペインから独立できたことが嬉しかったし、誇らしかったんでしょうね。

これらのことから、この絵が過去、つまり歴史を描いていることがわかります。

ジャンルの中で歴史画が一番すごい

絵画は、主題によって格付けされていた時代がありました。それもかなり長く。

印象派の登場によってこれが崩れていくことになるのですが、これはまた別の話。

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歴史画がヒエラルキーの頂点だったのは、一言で言えば、描く対象が偉い人だからです。

また、歴史画を描くには、その主題についての幅広い知識と理解、効果的な彩色、多数の人物の配置や的確な動きを伴う画面構成など、幅広い教養と技量が必要でした。

つまり深い教養が画家自身にも無いと描くことができません。

フェルメールは、自分にもその力があることを示したかったのでしょう。

ただ、当時のオランダでは、仰々しい歴史画よりも、家に飾れるような風俗画などが人気だったため、フェルメールもそのような絵を描きました。

カーテン

 

オランダの芸術家は、しばしば作品の中に、一部開かれた重いカーテンを描きました。

フェルメールも複数の作品に用いています。

これは、演劇の幕のような効果があります。

絵の鑑賞者に、プライベートな空間や秘密を垣間見せるためにカーテンが引かれたのだとそれとなく思わせることで、親密な空間を覗き見しているように感じさせる効果があります。

 

このようなカーテンを描くことによって、画家は複雑な生地を描く自分の腕を披露することができました。

カーテンには、ポワンティエ技法を用いて光の粒を描いています。

フェルメールが、生地の粗さと同様に重量感まで、人を納得させるように真に迫った表現力に優れた画家だったということがわかります。

流行の市松模様の床

 

フェルメールの作品のいくつかに、白と黒の大理石を敷いた同じタイプの市松模様の床が登場します。

そのことから、彼の屋敷にはおそらくこのような床があったのだろうといわれています。

強いパターンは奥行きを生み出す効果があります。

オランダの富裕層の間で流行したこの床を、一般家庭ではタイルで代用し、市松模様に仕立てていました。

フェルメールの作品のうち約12点に、遠近法のための消失点にあたるところに、ピンを差した穴があります(これは通常はX線でしか見ることができません)。

そこからキャンバス上に糸を張って印をつけることで、床のパターンを正確に描くことができます。

誰もが欲しがる名画

本作は、フェルメールが自分の技量を証明するために描いた作品だと考えられていますが、さらに彼にとって特別な意味を持つ絵でもあったようです。

というのも、フェルメールは亡くなるまでこの絵を手元に置いていました。

彼の死後、未亡人が屋敷内の作品を借金返済のために売りに出したときでさえも、この作品は売らずに手元に置こうと試みていました。(結局失敗しましたが)

19世紀になるまでその所在ははっきりとしていませんでしたが、1813年にオーストリアの貴族ツェルニン伯爵が購入しました。

このときは、フェルメールの同時代の画家ピーテル・デ・ホーホの作品だと考えられていました。

1940年、ヒトラーが個人コレクションとしてウィーンのツェルニン家から買い取りました。

その頃には、この作品はフェルメールの最高傑作のひとつと認識されていました。

戦後、ツェルニン家はこの作品を強要されて売却したものであり、返却されるべきであると主張しましたが、1946年にオーストリアの国有財産となりました。