「祈りの手」画家デューラーのハートフルストーリは絶対ウソ

こんにちは!

道徳の授業で『いのりの手』というお話を聞いたことがある人もない人も、

画家デューラーについてどこまで知っていますか?

デューラーはモノグラム最初に使用した画家でもあります。

モノグラムといえばルイ・ヴィトンやシャネルのロゴなんかを思い浮かべる、文字を組み合わせたマークですね。

早速見ていきましょう!

アルブレヒト・デューラー(1471-1528年)


アルブレヒト・デューラー《自画像》1498年

アルブレヒト・デューラーはドイツの画家です。

14〜18人兄弟の三男として生まれました。

父親は金細工師で、もちろん仕事を子供に継がせるつもりでしたが、デューラーの絵の上手さを見て、画家への道を応援します。

険悪な夫婦仲


アルブレヒト・デューラー《アグネス》1494年

父親の勧めで23歳で資産家の銅細工師の娘アグネスと結婚します。いわゆる親が勝手に決めた結婚です。

仲はとても悪く、関係は冷め切っており、デューラーは影でアグネスのことを「年老いたカラス」と呼んでいました。独特なネーミングセンス。

キリストのマネをした自画像


アルブレヒト・デューラー《自画像》1500年

デューラーが28歳のときに描いた自画像です。

この絵を最後に、肖像画を描くことはありませんでした。

それまで、真正面を向いて描かれたのは、礼拝の対象となる聖人やキリストのみでした。

キリストの絵は多数あれど、画家が自分をキリストになぞらえて描くということは、このデューラーの絵以外、後にも先にもありません

この絵のどこに、キリストっぽさを感じるかというと、正面を見据える構図と、手のポーズが祝福のポーズに似ているところです。

もちろんふざけてキリスト風の絵を描いているのではなくて、芸術家としての使命感や自信、強い意志をキリストに重ね合わせて表現しています。

画家単体の自画像を描いた初めての画家

デューラーは、画家単体の自画像を描いた初めての画家といわれています。

そもそも画家が自画像を描けるようになったのも、ガラス鏡(ベネチア鏡)が発明され、鮮明に自分の姿を見ることができるようになったからです。

それまでは、金属製の鏡で平らではなかったので、絵を描くほど鮮明に見えませんでした。

当初、画家の自画像は、絵の中の登場人物として紛れ込む感じで描かれることが一般的でした。

そこで、このデューラの自画像です。ナルシストっぽいな…笑

髪の毛が保管されている

この肖像画を見てもわかるように、長い髪のデューラーですが、彼の死の2日後に切り取られて、今も保管してあるそう。こわい。

モノグラムを初めて使った画家


アルブレヒト・デューラー《自画像》一部 1500年

デューラーは初めてモノグラムを使用した画家でもあります。

完成した作品にのみ「A(アルブレヒト)」と「D(デューラー)」と、画家のイニシャルを組み合わせたモノグラムをサインとして書き込んでいます。

上の絵3枚ともこのサインが入っていますね。

「A」が鳥居みたいでかわいい。

右の文字はラテン語で「アルブレヒト・デューラー ノクリム(南ドイツ地方)の人 変わることのない色彩で自らを描く 28歳」と書いてあります。

道徳の教科書に登場する心温まる物語「いのりの手」


アルブレヒト・デューラー《祈る手》1508年

小学校の道徳の教科書にも載っているハートフルストーリーを簡単に説明すると…

デューラーと友人のハンスは、絵描きになる夢を持っていましたが、とにかくお金がありませんでした。

お金を稼ぐために働いていると絵を描く時間が全くありません。

そこでハンスがこんなことを提案します。

「一人が働いて、そのお金で一人は絵の勉強をしよう。それを交代でやろうよ!」

ということで、デューラーは絵の勉強を、ハンスは鉄工所で働き続けます。

数年後、絵の勉強を終えたデューラーが、

「ハンスお待たせ!君の番だよ!!!」

ところがハンスの手を見てデューラーは涙を流します。

なぜなら、ハンスの手は、重いハンマーを持ちすぎて指が変形してしまい、もう絵を描くことができなくなっていたからです。

後日再度謝りにハンスの家へ行くと、ハンスは静かに祈りを捧げていました。

「デューラーが罪悪感から開放されますように。自分が果たせなかった夢を彼が叶えてくれますように。」

それを聞いたデューラーは「手を描かせてくれ!!!」とハンスにお願いします。

そして描かれたのがこの絵です。

というストーリーですが、多分嘘です。(笑)

わたしも最初この話を読んだときに、「なんていい話なんだ…!!!」って思いましたが、ちょっとこんな美談ある???っていう気持ちもあり調べてみたところ、作り話ですね、これは。

この絵はデューラー37歳のときに描かれた作品で、ヘラー祭壇画使徒の手を描くためのスケッチです。


アルブレヒト・デューラー《ヘラー祭壇画》1507-1509年の模作

本物は火事で消失してしまっているので、これは別の画家が描いたコピーです。

真ん中の絵の側のピンクっぽいおじさんの手の部分用にスケッチしたのが《祈る手》です。

そしてハンスという友人もいたかどうか怪しい。

デューラーの兄弟にハンスという名前の画家がいるのと、デューラーの超優秀な弟子の名前もハンスです。

このどちらかの名前を勝手に取って、それっぽい感動話にしていそう。

それと、もしこの話が本当だとして、37歳で戻ってくるって遅くない?

ひどすぎない??仮にハンスの手が大丈夫だったとしても年齢的に厳しくない??

このお話、キリスト教系の布教話としても定番の有名話なのかその方面でも多数ヒットします。確かにいい話だけれども。

道徳の教科書にこれ使うのもなんかすごいな〜いい話だけど嘘じゃん…なんて思ったり。

まとめ

デューラーモノグラムを最初に使った画家
・自らをキリストになぞらえて描いた最初で最後の画家
・「いのりの手」のストーリーはウソ